
会議でアイデアを求めても、いつも似たような意見しか出てこない。競合他社と差別化できるような、斬新な企画が思い浮かばない。こうした「アイデアの停滞」に悩んでいませんか?
その原因は、私たち自身が持つ「常識」や「思い込み」かもしれません。この記事では、あなたの思考の前提を根底からひっくり返し、革新的なアイデアを生み出すための思考法「逆設定法」について、初心者の方にも分かりやすく徹底解説します。
目次
逆設定法とは何か?発想が広がる思考の前提をひっくり返す方法
まずは、このユニークな発想法の基本から押さえましょう。
逆設定法の定義と狙い(常識をあえて反転させる理由)
逆設定法(ぎゃくせっていほう)とは、あるテーマや課題に関する「当たり前」や「常識」「前提条件」を意図的にリストアップし、それらをすべて真逆(あるいは否定)にすることで、新しいアイデアの切り口を見つける発想法です。
例えば、「レストラン」というテーマなら、以下のような常識があります。
- 「店内で食べる」
- 「メニューから選ぶ」
- 「料理人が作る」
- 「お金を払う」
逆設定法では、これらを「店内で食べない」「メニューから選ばない」「料理人が作らない」「お金を払わない」と、あえて反転させてみます。
一見すると、これらは「あり得ない」馬鹿げた設定に見えるかもしれません。しかし、この「あり得なさ」こそが逆設定法の狙いです。
私たちは無意識のうちに「こうあるべきだ」という思考の枠に縛られています。逆設定法は、この枠を強制的に破壊し、「もし前提が違ったら?」という新しい思考のスタートラインに立つためのテクニックです。常識を反転させることで、既存の延長線上にはない、まったく新しい視点やニーズを発見することを狙いとしています。
既存の発想法との違い(ブレストやマンダラチャートとの比較)
アイデア発想法には、ブレインストーミング(ブレスト)やマンダラチャートなど、有名なものがいくつかあります。逆設定法は、これらと根本的にアプローチが異なります。
| 発想法の種類 | 主な目的とアプローチ | 特徴 | 
| ブレインストーミング | アイデアの「量」を出す(加算的) | 質より量を重視し、他人の意見を否定せず、自由に連想を広げていく。既存の土台の上にアイデアを積み重ねるイメージ。 | 
| マンダラチャート(マンダラート) | アイデアを「構造化」し「広げる」(展開的) | 3x3のマスを使い、中心のテーマから関連する要素を連想し、さらにその関連要素を深掘りして発想を広げていく。 | 
| 逆設定法 | アイデアの「前提」を壊す(破壊的・転換的) | 「そもそも、なぜこうなっている?」と問いかけ、土台そのものをひっくり返す。思考の「リセット」に近い。 | 
ブレストやマンダラチャートが、今ある土台から「どう広げるか?」を考えるのに対し、逆設定法は「そもそも、その土台は正しいのか?」と疑うことからスタートします。これが、斬新なアイデアを生み出すための大きな違いです。
逆設定法で斬新な発想が生まれる仕組み
なぜ、前提をひっくり返すだけで新しい発想が生まれるのでしょうか。そのロジックを解説します。
脳の思考パターンを壊し新しい連想を生むプロセス
私たちの脳は、非常に効率的にできています。「レストランは食事をするところ」「ホテルは泊まるところ」といった具合に、物事をパターン化(固定観念)して記憶し、素早く判断できるようにしています。
しかし、これがアイデア発想の邪魔をします。何かの課題について考えるとき、脳は自動的に「いつものパターン」で答えを探そうとするため、常識的なアイデアしか出てこなくなるのです。
逆設定法は、この自動化された思考パターンに「待った」をかけます。
「ホテルは泊まらないところ」
このキーワードを脳に与えると、脳は「いつものパターン」が使えず、混乱します。そして、「泊まらないホテルって何だ?」「時間貸し?」「休憩スペース?」「シャワーだけ?」と、新しい答え(連想)を必死に探し始めます。
この「強制的な思考の再検索」こそが、新しいアイデアの源泉となるのです。
「普通なら〇〇」を裏切ることで価値を再構築するロジック
ビジネスやサービスにおける「価値」とは、多くの場合、「顧客の期待に応えること」です。しかし、革新的なアイデアは、しばしば「顧客の期待を裏切る」ことから生まれます。
ただし、これは悪い意味での裏切りではありません。「普通ならこうだろう」という期待(常識)を、良い意味で超える・あるいは別の価値に置き換えることです。
- 普通の期待: 「カフェは、コーヒーを飲んでおしゃべりする場所」
- 逆設定: 「おしゃべり禁止のカフェ」
- 新しい価値: → 静かに集中して読書や仕事ができる「書斎」としての価値が生まれる。
- 普通の期待: 「タクシーは、街中で手を挙げて捕まえるもの」
- 逆設定: 「タクシーが来ない(こちらから指定の場所に来させる)」
- 新しい価値: → アプリで呼べば、指定の場所に正確に来てくれる「配車サービス」としての価値が生まれる。(UberやGOなど)
逆設定法は、「普通なら〇〇」という暗黙の前提をあぶり出し、それを裏切ることで「本当に求められている価値は何か?」「別の価値を提供できないか?」を強制的に考えさせ、価値を再構築するロジカルな手法なのです。
逆設定法のやり方と実践ステップ
では、具体的に「逆設定法」をどのように進めていけばよいか、3つのステップで解説します。
Step1:前提条件の洗い出し
最も重要なステップです。まず、あなたが考えたいテーマに関する「常識」「当たり前」「前提条件」を、思いつく限りすべて書き出します。
このとき、「これは前提だろうか?」と悩む必要はありません。「〇〇といえば、普通はこうだ」と思うことを、些細なことでも構わないのでリストアップしましょう。
【例】テーマ:「オフィスの会議」
- 会議室で行う
- 複数の人が集まる
- 上司(目上の人)から話し始める
- 資料(紙やスライド)がある
- イスとテーブルがある
- 時間を決めて行う(例:1時間)
- 目的を達成するために行う
- 何かを決めるために行う
Step2:前提をすべて逆にする
Step1で出した前提を、一つひとつ「逆」に変換していきます。この時点では、現実的かどうかは一切考えず、機械的に反転させることがコツです。
【例】テーマ:「オフィスの会議」の前提を逆にする
- 会議室以外で行う(例:屋外、カフェ、歩きながら)
- 一人で(あるいはAIと)行う
- 部下(立場の低い人)から話し始める
- 資料を一切使わない
- イスもテーブルもない(例:立ったまま行う)
- 時間を決めない(終わるまでやる、あるいは5分だけ)
- 目的を達成しない(雑談だけする)
- 何も決めない
Step3:逆転アイデアを現実解に変換する
Step2で出た「逆の設定」は、そのままでは使えない奇妙なものばかりです。Step3では、その奇妙な設定から「新しい価値」や「現実的なアイデア」に変換していきます。
「なぜ、この逆設定は面白い(あるいは役に立つ)のか?」という視点で発想を広げます。
- 逆設定: イスもテーブルもない
- → 現実解: 「立ち会議(スタンディングミーティング)」
- → 価値: ダラダラと座っているより、必要なことだけを話すようになり、会議時間が劇的に短縮される。
 
- 逆設定: 会議室以外で行う + 歩きながら
- → 現実解: 「ウォーキング・ミーティング」
- → 価値: 景色が変わり、リラックスすることで、会議室では出ないような自由な発想が生まれやすくなる。
 
- 逆設定: 何も決めない
- → 現実解: 「雑談専用ミーティング」
- → 価値: 普段話さない部署間の交流が生まれ、イノベーションのきっかけになる。(Googleの「20%ルール」もこれに近い発想です)
 
このように、逆設定法は「前提を疑う」→「逆転させる」→「現実解に落とし込む」というプロセスを踏むことで、常識から外れた有効なアイデアを生み出します。
逆設定法の具体例とすぐ使えるアイデア例
逆設定法がいかに強力か、身近な成功事例を見てみましょう。
身近な成功事例(ビジネス・商品・生活の例)
私たちの周りにある革新的なサービスの多くは、既存の常識に対する「逆設定」から生まれています。
【事例1:宿泊業界】
- 常識: ホテルは、自社で建物を「所有」し、「フルサービス」を提供する。
- 逆設定: 建物を「所有しない」。サービスを「提供しない」(宿泊者自身が管理する)。
- → 斬新なアイデア:Airbnb(エアビーアンドビー)
- 世界最大の宿泊サービス企業でありながら、自社でホテルを一切所有していません。「空き部屋」という遊休資産を活用するプラットフォームという、全く新しい市場を生み出しました。
 
【事例2:飲食業界(カフェ)】
- 常識: カフェは、顧客が「自由に」過ごし、店員が「接客」する。
- 逆設定: 顧客の行動を「制限」する。店員が「接客しない」(むしろ監視する)。
- → 斬新なアイデア:原稿執筆カフェ(進捗管理カフェ)
- 「目標の作業が終わるまで退店できない」という逆設定のカフェです。「集中せざるを得ない環境」という新しい価値を提供し、作家やクリエイターに支持されています。
 
【事例3:小売業界(書店)】
- 常識: 書店は、できるだけ「多く」の本を並べて売る。
- 逆設定: 「一種類」の本しか売らない。
- → 斬新なアイデア:森岡書店(銀座)
- 「一冊の本を売る書店」として有名です。一冊に絞り込むことで、その本の世界観を深く掘り下げる展示やイベントを行い、単なる「本を買う場所」から「体験を買う場所」へと価値を転換させました。
 
逆設定のテンプレート集(禁止・反対・極端など)
「どうやって逆にすればいいか分からない」という方のために、逆設定法で使いやすい「反転の型(テンプレート)」をご紹介します。
| 逆設定の型 | 説明と例 | 
| 1. 反対(Opposite) | 物事の性質や方向性を真逆にする | 
| 2. 禁止(Prohibition) | 当たり前に「できる」ことを「禁止」する | 
| 3. 削除(Deletion) | 当たり前に「ある」ものを「削除」する | 
| 4. 極端(Extreme) | 数量や程度を「極端」にする | 
| 5. 順序逆転(Reversal) | プロセスの順序を入れ替える | 
逆設定法を成果につなげるコツと注意点
逆設定法は強力ですが、一歩間違えると「非現実的な妄想」で終わってしまいます。事業戦略として成果につなげるためのコツと注意点を解説します。
逆転アイデアを机上の空論に終わらせないためのポイント
1. 「なぜ?」を問い続ける
Step2で出た「逆設定のアイデア」(例:接客しない店)を、それだけで終わらせてはいけません。
「なぜ、接客しない店が価値を持つのか?」
「誰が、それを求めるのか?」
と問い続け、アイデアの「核となる価値」を見つけ出すことが重要です。
(例:店員に話しかけられず、服選びに集中したい人にとっては価値がある)
2. 顧客の「不満」と結びつける
逆設定は、既存の常識に対する「不満」や「不便」を解決するヒントになります。「会議が長い(不満)」→「前提:イスがある」→「逆設定:イスがない」→「解決策:立ち会議」のように、逆設定と顧客の課題を結びつける視点を持ちましょう。
3. 組み合わせる
逆設定のアイデアは、単体では弱くても、他のアイデアや技術と組み合わせることで強力になることがあります。「店舗がない(逆設定)」+「スマホアプリ(技術)」=「デリバリー専門店」のように、柔軟に組み合わせましょう。
アイデアの選別と実行フェーズへの落とし込み方
1. 「価値」と「実現可能性」で評価する
逆設定法で出たアイデアは、必ず「顧客への提供価値は高いか?」「本当に実現可能か(技術、コスト、法律の面で)?」という2つの軸で評価し、選別します。
2. 小さくテストする(プロトタイピング)
「おしゃべり禁止のカフェ」をいきなり作る必要はありません。まずは既存のカフェで「サイレントタイム」を1日だけ導入してみるなど、小さくテスト(プロトタイピング)して、顧客の反応を見ることが重要です。
逆設定法で生まれたアイデアは、最初は奇抜に見えるため、周囲の抵抗に遭うことも多いです。しかし、その奇抜さの裏にある「本質的な価値」を論理的に説明し、小さく実行して成果を示すことが、組織を動かす鍵となります。
まとめ:逆設定法で常識を壊し、斬新な発想を生み出す力を鍛える
最後に、逆設定法のポイントをまとめます。
逆設定法の本質と活用メリットの再確認
逆設定法は、単なる「変わったアイデア」を出すためのテクニックではありません。その本質は、「思考の固定化(バイアス)を自覚し、それを強制的に破壊すること」にあります。
この手法を活用する最大のメリットは、競合他社が「常識」という名の見えない壁の中で戦っている間に、自分だけがその壁の外にある「新しい市場(ブルー・オーシャン)」を発見できる可能性が高まることです。
 
   						           		 
