
2026年3月2日、クラウド会計ソフトで知られるフリー株式会社が、AIエージェントからfreee APIを直接操作できるMCPサーバー「freee-mcp」をオープンソースとして公開しました。国内バックオフィスSaaS企業として、AI時代に向けた大きな一歩となるこの取り組みの全容を解説します。
MCPサーバーとは何か
MCP(Model Context Protocol)は、AIモデルが外部サービスと安全にやり取りするための標準プロトコルです。従来、AIに業務システムを操作させるにはAPI連携のための専用コードを書く必要がありましたが、MCPサーバーを介することで、Claude DesktopやCursorといったAI対応ツールから自然言語で直接業務システムを操作できるようになります。
つまり「freee-mcp」を導入すれば、チャットで「先月の売上を教えて」「この取引先に請求書を作って」と話しかけるだけで、AIがfreeeのAPIを理解し、適切な操作を実行してくれるのです。
freee、AIエージェントからfreeeの基幹業務を操作可能にするMCPサーバー「freee-mcp」をOSSとして公開
freee-mcpの対応範囲
対応範囲は非常に広く、freeeが提供する5つの業務領域、約270本のAPIを網羅しています。
- 会計:取引、勘定科目、取引先、請求書、経費申請、固定資産、仕訳帳、総勘定元帳、試算表、振替伝票、口座明細など31カテゴリ
- 人事労務:従業員情報、勤怠管理、打刻、給与明細、賞与明細、年末調整、有給休暇、残業申請、承認フローなど28カテゴリ
- 請求書:請求書、見積書、納品書の作成・管理
- 工数管理:プロジェクト、チーム、パートナー、工数記録、単価設定など7カテゴリ
- 販売:案件管理、受注処理、マスタデータの管理
これだけの範囲をカバーしているため、日常的なバックオフィス業務のほとんどをAIとの対話で完結させることが可能になります。
具体的なユースケース:こんな業務が変わる
では実際に、日々の経理・労務業務がどのように効率化されるのか、具体的なシーンで見ていきましょう。
ユースケース1:日々の取引入力を対話で完了
経理担当者の日常業務の中でも特に時間を取られるのが、取引データの入力作業です。freee-mcpを使えば、次のような対話だけで取引登録が完了します。
従来の作業:
freeeにログイン → 取引登録画面を開く → 日付・勘定科目・金額・取引先・税区分を選択 → 決済口座を指定 → 保存
freee-mcp導入後:
「3月5日に株式会社ABCからコンサルティング料33万円(税込)が普通預金に入金された。売上高で登録して」とAIに伝えるだけ。AIが勘定科目・税区分・口座情報を自動で判定し、未決済・決済済みの区別まで適切に処理します。登録後はfreee上で確認できるURLも返してくれるため、ダブルチェックも容易です。
ユースケース2:請求書の作成から発行まで一気通貫
月末の請求書作成業務も大きく変わります。
従来の作業:
取引先マスタの確認 → 請求書作成画面 → 明細行を1行ずつ入力(品目名、数量、単価、税率)→ プレビュー確認 → 発行
freee-mcp導入後:
「株式会社XYZに2月分の請求書を作って。Webサイト制作費50万円と保守費用5万円、どちらも税率10%で」と依頼するだけ。取引先が未登録であれば新規登録から、明細行の作成、税計算まで一連の流れをAIが自動で実行します。見積書や納品書も同様に作成でき、作成後はブラウザで即座に内容を確認できます。
ユースケース3:経費申請の効率化
営業担当者や現場スタッフにとって面倒な経費申請も、AIとの会話で済むようになります。
従来の作業:
経費申請画面を開く → 経費科目テンプレートを選択 → 日付・内容・金額を入力 → 領収書を添付 → 申請ボタン
freee-mcp導入後:
「今日のタクシー代、新宿から渋谷まで2,400円を経費申請して。交通費で」と伝えれば、AIが経費科目テンプレートの中から適切なカテゴリを選び、申請を作成します。ステータスは「下書き→申請中→承認済→精算済み」と自動で遷移し、現在の状態もAIに聞けばすぐに確認できます。
ユースケース4:勤怠管理と打刻
人事労務の領域では、勤怠管理が大幅に簡略化されます。
freee-mcp導入後:
「出勤打刻して」「休憩入ります」「退勤します」——これだけでAIが出勤(clock_in)、休憩開始(break_begin)、休憩終了(break_end)、退勤(clock_out)の4種類の打刻を実行してくれます。
管理者であれば「佐藤さんの今月の勤怠サマリを見せて」と依頼して、月次の勤怠状況を即座に把握することも可能です。残業申請や有給休暇申請も対話形式で完了します。
ユースケース5:月次の経営分析レポート
経営者や管理職にとって最も価値があるのが、データ分析の効率化かもしれません。
freee-mcp導入後:
「今月の試算表を出して」「売上の前月比を教えて」「経費が多い科目トップ5は?」といった問いかけに、AIが総勘定元帳や試算表のデータを取得して即座に回答します。従来は会計ソフトの画面を何度も切り替えながら確認していた作業が、対話一つで完結します。
ユースケース6:給与明細・賞与明細の確認
従業員からの「先月の給与明細を確認したい」「賞与の内訳を教えて」といった問い合わせにも、AIが即座に対応できます。人事担当者が個別に対応する必要がなくなり、問い合わせ対応の工数を大幅に削減できます。
技術的な特徴
freee-mcpには、単なるAPI中継にとどまらない工夫が施されています。
まず、OAuth 2.0 + PKCE認証を採用しており、セキュリティを確保しつつ、トークンの自動更新にも対応。一度認証すれば、セッション中に再認証を求められることなく快適に使えます。
次に、Agent Skill(レシピ+リファレンス)*という仕組みが特徴的です。
72本のAPIリファレンスに加え、取引操作・経費申請・請求書操作・勤怠管理・従業員管理といった業務シナリオごとの「レシピ」が用意されています。AIはまずレシピを参照して業務の流れを理解し、次にリファレンスで正確なAPIパラメータを確認してから操作を実行します。この二段構えにより、誤ったAPI呼び出しが起きにくい設計になっています。
また、複数事業所への対応も標準装備。事業所の切り替えコマンドを使えば、複数法人を管理している税理士や経理担当者でもスムーズに利用できます。
導入方法はシンプル
freee-mcpはnpmパッケージとして無料で公開されています。freeeアプリストアに完成品のアプリがあるわけではなく、自分の環境に設定して使う形です。プログラミングの知識がなくても、以下の手順どおりに進めれば導入できます。
事前準備:Node.jsをインストールする
まず、お使いのパソコンに「Node.js」という無料ソフトが必要です。すでに入っている方はスキップしてください。
- Node.js公式サイト(https://nodejs.org/ja)にアクセス
- 「LTS(推奨版)」と書かれたボタンをクリックしてダウンロード
- ダウンロードしたファイルを開き、画面の指示に従ってインストール
これだけで準備完了です。
ステップ1:freeeの開発者ページで「アプリ」を作成する
freee-mcpがあなたのfreeeアカウントにアクセスするための「鍵」を発行する作業です。
- https://app.secure.freee.co.jp/developers にアクセスし、freeeアカウントでログイン
- 画面上の「アプリ管理」をクリック
- 「新規追加」ボタンを押し、アプリ名(例:「MCP連携」など自由でOK)と概要を入力して作成
- 作成後に表示される「Client ID」と「Client Secret」をメモ帳などにコピーしておく(後で使います)
- 同じ画面の「コールバックURL」欄に `http://127.0.0.1:54321/callback` と入力して保存
ステップ2:セットアップコマンドを実行する
次に、パソコンの「ターミナル」(Macの場合)または「コマンドプロンプト」(Windowsの場合)を開きます。Macの方はアプリケーション → ユーティリティ → ターミナルで見つかります。
開いたら、以下を入力してEnterキーを押してください。
npx freee-mcp configure
対話式のガイドが始まるので、画面の指示に従って進めます。
- ステップ1でメモした「Client ID」を入力 → Enter
- 「Client Secret」を入力 → Enter
- ブラウザが自動で開くので、freeeアカウントで「許可」をクリック
- 操作したい事業所を選択
これでfreeeとの接続設定は完了です。
ステップ3:Claude Desktopに接続設定を追加する
最後に、AIツール(ここではClaude Desktopを例に説明します)にfreee-mcpの情報を教えてあげます。
Macの場合:
1. Finderを開き、メニューバーの「移動」→「フォルダへ移動」をクリック
2. `~/Library/Application Support/Claude/` と入力して移動
3. `claude_desktop_config.json` というファイルをテキストエディタで開く(なければ新規作成)
4. 以下の内容をそのままコピーして貼り付け、保存
{
"mcpServers": {
"freee": {
"command": "npx",
"args": ["freee-mcp"]
}
}
}
Windowsの場合:
ファイルの場所が `%APPDATA%\Claude\claude_desktop_config.json` に変わるだけで、貼り付ける内容は同じです。
5. Claude Desktopを再起動すれば設定完了です
これで、Claude Desktopのチャット画面からfreeeを直接操作できるようになります。対応ツールはClaude Desktop以外にも、Claude Code、Cursorなど主要なAI開発環境を幅広くカバーしています。
今後の展望
freeeは今後、ローカルインストール不要のURL接続環境の整備や、ChatGPTのプラグインマーケットプレイスへの対応など、より手軽に使える環境づくりを進める方針です。認証基盤の拡充や、Agent Skillsをはじめとする多様なAI規格への対応も予定されています。
バックオフィス×AIの可能性
freee-mcpの公開は、バックオフィス業務のあり方を根本から変える可能性を秘めています。
これまで「入力作業」だった経理・労務の日常業務が、AIへの「依頼」に変わる。取引の入力、請求書の作成、経費の申請、勤怠の打刻、給与明細の確認――こうした定型作業をAIが代行することで、本来注力すべき経営判断や戦略立案に時間を使えるようになります。
特に、複数のクライアントを抱える税理士事務所や、少人数で経理を回しているスタートアップにとって、その効果は絶大です。「AIに話しかけるだけで経理が終わる」という状況が1、2年で実現されると思います。
Apache-2.0ライセンスで公開されているため、開発者コミュニティによる拡張や応用も期待できます。国内SaaS企業によるMCPサーバーのOSS公開は先駆的な事例であり、今後の業界動向にも注目です。