
「なぜ、自社の商品は優れているのに選ばれないのか?」その悩み、実は「立ち位置」が曖昧なせいかもしれません。
ビジネスにおいて「誰に・何を・どう売るか」を定めるポジショニング戦略は、激しい競争を勝ち抜くための羅針盤です。
本記事では、事業戦略の専門家監修のもと、初心者でも迷わず実践できるよう、STP分析に基づいたポジショニングのやり方から、差別化を可視化するポジショニングマップの作成手順までを徹底解説します。競合に埋もれない「独自の価値」を見つける旅に出かけましょう。
目次
ポジショニング戦略とは何かを具体的に理解する
マーケティングや事業戦略において、「ポジショニング」という言葉をよく耳にしますが、具体的に何をすることなのかイメージしづらいという方も多いのではないでしょうか。
まずは、ポジショニング戦略の定義と、なぜそれが必要なのか、その本質的な目的について解説します。
ポジショニングの目的と「選ばれる理由」を明確にする考え方
ポジショニング(Positioning)とは、直訳すると「位置取り」ですが、マーケティングにおいては「顧客の頭の中にある独自の位置を築く活動」を指します。
店舗の棚のどこに置くかという物理的な場所の話ではなく、顧客があなたの商品やサービスを想起したときに、「ああ、〇〇といえばあの商品だよね」「安くて早いならあのお店だよね」といった「独自のイメージ」を持ってもらうことが最大の目的です。
もし、この「位置」が定まっていないとどうなるでしょうか?
顧客から見れば、「他と何が違うのかわからない商品」として認識されてしまい、最終的には「価格の安さ」だけで比較される不毛な価格競争に巻き込まれてしまいます。
ポジショニングのゴール
- 脱・価格競争:「価格」以外の価値で選ばれるようになる。
- 指名買いの獲得:「あなたから買いたい」という独自の地位を築く。
つまり、ポジショニング戦略とは、「顧客に対して『選ばれる理由』を明確にし、宣言すること」と言い換えることができます。
STP分析におけるポジショニングの位置づけ(Segmentation・Targetingとの関係)

ポジショニングを正しく行うためには、その前段階であるSTP分析の流れを理解しておく必要があります。STP分析とは、フィリップ・コトラーが提唱したマーケティングの基本的なフレームワークです。
ポジショニングは、STPの最後のプロセスにあたります。
| プロセス | 名称(英語) | 日本語訳 | やることの概要 |
| S | Segmentation | セグメンテーション | 市場を分ける 顧客を属性やニーズごとにグループ分けする。 |
| T | Targeting | ターゲティング | 狙う市場を決める 分けたグループの中から、自社が攻めるべき層を絞る。 |
| P | Positioning | ポジショニング | 立ち位置を決める ターゲットに対して、どのような強みをアピールするか決める。 |
このように、「市場を細分化し(S)」→「狙う相手を定め(T)」→「彼らに刺さる独自の価値を定義する(P)」という一連の流れ(やり方)が非常に重要です。誰に売るか(ターゲット)が決まっていないのに、立ち位置(ポジショニング)だけを決めようとしても、誰にも響かないメッセージになってしまうからです。
競争上の差別化につながる3つの視点(顧客・競合・自社)
優れたポジショニングを行うためには、常に「3C分析」の視点を持つことが不可欠です。
- Customer(顧客): ターゲット顧客が本当に求めているものは何か?(ニーズ)
- Competitor(競合): ライバルはどのような価値を提供しているか?
- Company(自社): 自社にはどのような強みやリソースがあるか?
ポジショニングの成功法則は、「顧客が求めていて(Customer)、競合が提供できておらず(Competitor)、自社だけが提供できる(Company)」領域を見つけることです。
初心者が陥りやすいミスとして、「自社の言いたいこと」ばかりを主張してしまうケースがあります。しかし、顧客にとって重要でなければ、それは独りよがりなポジショニングです。あくまで「顧客視点」を起点に、競合との違いを打ち出すやり方を意識しましょう。
STP分析を活用したポジショニングのやり方
ここからは、実際にSTP分析のフレームワークに沿って、ポジショニングを決定していく具体的な手順(やり方)を解説します。紙とペン、あるいはホワイトボードを用意して、実際に書き出しながら進めてみてください。
セグメンテーションで市場を整理する(市場の切り分け方)

最初のステップは「セグメンテーション(市場細分化)」です。
全ての人が満足する商品は存在しません。まずは、不特定多数の人々を「同じニーズや性質を持つグループ」に分けていきます。
分ける際には、以下の4つの変数を組み合わせるとスムーズです。
【代表的なセグメンテーション変数】
| 変数名 | 内容 | 具体例 |
| 地理的変数 (ジオグラフィック) | 国、地域、気候など | 日本国内、関東エリア、寒冷地、駅チカ |
| 人口動態変数 (デモグラフィック) | 年齢、性別、職業、家族構成 | 20代女性、独身、会社員、富裕層 |
| 心理的変数 (サイコグラフィック) | 価値観、ライフスタイル、性格 | 新しいもの好き、健康志向、節約志向、オーガニック重視 |
| 行動変数 (ビヘイビアル) | 使用頻度、利用シーン、知識 | ヘビーユーザー、初心者、ギフト利用、平日夜利用 |
ポイント:単に「20代女性」と分けるだけでなく、「仕事が忙しく、時短で美容ケアをしたい20代女性」のように、心理的変数や行動変数を掛け合わせることで、より解像度の高い市場の姿が見えてきます。
ターゲティングで狙う顧客を決める(6Rの判断基準)

市場を分けたら、次は「どのグループを狙うか」を決定する「ターゲティング」です。
ここで役立つのが、その市場が魅力的かどうかを判断する「6R」というフレームワークです。
以下の表を参考に、自社が勝てる市場かどうかをチェックしてください。
| 6Rの要素 | 日本語訳 | 判断するための問い・チェックポイント |
| Market Scale | 市場規模 | 事業が成り立つ十分な人数(パイ)がいるか? ニッチすぎると売上が限界に達しやすい。 |
| Rate of Growth | 成長性 | 今後、その市場は拡大傾向にあるか? 今は小さくても将来性があれば参入価値がある。 |
| Rival | 競合状況 | 強力なライバルが既に独占していないか? いわゆるレッドオーシャンではないかを見極める。 |
| Rank | 優先順位 | 自社にとって優先すべき重要な市場か? 自社の強みが活かせない市場は後回しにする。 |
| Reach | 到達可能性 | その顧客に商品を届けたり、広告を見てもらう手段があるか? 物理的な物流網や、Webでの接点を持てるか。 |
| Response | 測定可能性 | 広告や施策の効果を測定できるか? 反応が見えないと改善のPDCAが回せない。 |
特に初心者が重視すべきは「Rival(競合)」と「Reach(到達可能性)」です。「市場は大きいが、大手企業が独占している(勝ち目がない)」、「ニーズはあるが、その人たちにアプローチする方法がない」といった場所は避けるのが賢明です。
ポジショニングで提供価値を定義する具体ステップ

ターゲットが決まったら、いよいよ「ポジショニング」の核となる部分、「そのターゲットに対して、どのような価値(ベネフィット)を提供するか」を定義します。
以下の質問に答える形で言語化してみましょう。
- ターゲットは誰か?
- 例:肌荒れに悩むが、忙しくてスキンケアに時間をかけられない30代の働く女性
- 競合商品は何か?
- 例:高級デパコス(時間がかかる)、ドラッグストアの安価品(効果が不安)
- 自社商品の最大の特徴は?
- 例:製薬会社が開発した、オールインワンでも医療レベルの保湿力
- 顧客が得られるベネフィット(利益)は?
- 例:たった1分で、エステ帰りのようなモチモチ肌になれる安心感
ここでのポイントは、機能(スペック)だけでなく、情緒的な価値(安心感、優越感など)も含めて考えることです。
「顧客の頭の中に残るメッセージ」を作るポイント
ポジショニングを決定したら、それを顧客に伝えるための「メッセージ(キャッチコピーやタグライン)」に落とし込みます。良いポジショニングメッセージは、「誰のための、何の商品か」が一瞬で伝わります。
- 悪い例: 高品質で安い、誰にでもおすすめの化粧水。
(誰に向けたものか不明確で、特徴が刺さらない)
- 良い例: 残業続きのあなたへ。30秒で完了する「塗るサプリメント」。
(ターゲットとベネフィットが明確)
ポジショニングマップの作り方ステップ
ポジショニング戦略を可視化し、チーム内で共有したり、抜け漏れがないか確認したりするために有効なのが「ポジショニングマップ」です。2つの軸(X軸・Y軸)で構成される十字のマップ上に、自社と競合を配置する方法です。
競合と比較するための評価軸を選定する方法
ポジショニングマップ作成において、最も難しく、かつ重要なのが「2つの軸の選び方」です。
軸の選び方を間違えると、意味のないマップになってしまいます。
【軸選びの鉄則】
- 「価格」と「品質」の軸は避ける
多くの企業が「高品質・高価格」か「低品質・低価格」の直線上に並んでしまい、差別化が見えにくくなるためです。 - 2つの軸は「相関しない(独立した)」要素にする
例えば「甘い ⇔ 苦い」と「糖度が高い ⇔ 糖度が低い」は似た意味になるため避け、「味」と「用途」のように違う要素を組み合わせます。 - 顧客にとって「重要な選定基準(KBF)」であること
顧客が気にしていない要素(例:社長の出身地など)で軸を作っても、ビジネス上の意味はありません。
マップ上に自社・競合を配置して差別化ポイントを見つける手順
軸が決まったら、実際に競合他社や代替品を配置していきます。
- X軸とY軸を書く
- 主要な競合プレイヤーをプロット(配置)する
市場シェアの高いトップ企業や、ターゲットが比較しそうな商品を配置します。 - 自社をプロットする
・競合が密集しているエリアは「激戦区(レッドオーシャン)」です。
・競合がいない、ぽっかり空いたエリアは「未開拓市場(ブルーオーシャン)」の可能性があります。
作成したマップから戦略に落とし込む方法
マップが完成したら、そこから具体的な戦略を導き出します。
- 空き地を狙う場合
「このポジションは誰もいない。ここを『〇〇専門』として打ち出せばトップになれる」 - 競合と被る場合
「既に強力なライバルがいる。真正面から戦わず、少し軸をずらして差別化できないか?」
具体例:カフェチェーン市場におけるポジショニングマップ
ここでは、誰もがイメージしやすい「カフェチェーン市場」を例に、5つの主要ブランドを実際にプロットして分析します。
【設定する2つの軸】
- 縦軸:利用動機(滞在スタイル)
- 上:「ゆったり滞在・体験重視」(サードプレイス、くつろぎ、会話)
- 下:「短時間・機能重視」(移動中の休憩、テイクアウト、喫煙)
- 横軸:価格帯
- 右:「高価格」
- 左:「低価格」
この軸の上に、主要5ブランドを配置すると以下のようになります。
【マップ上の配置図イメージと解説】

| 配置エリア(象限) | 代表的なブランド | ポジショニング解説 |
| ① 右上(高価格×ゆったり) | ルノアール | 「都会のオアシス・商談」 単価は高いが、席間隔が広く、おしぼりやお茶が出るなどフルサービス。ビジネスマンの商談や、静かに休憩したい層に特化。 |
| ② 右~中央(中高価格×ゆったり) | スターバックス | 「サードプレイス(第3の場所)」 家でも職場でもないおしゃれな空間体験を提供。価格は安くないが、Wi-Fiやブランド力で「作業や会話を楽しむ場所」として確立。 |
| ③ 右下(中価格×くつろぎ) | コメダ珈琲店 | 「街のリビングルーム」 スタバのようなおしゃれさよりも、自宅のような安心感(新聞・雑誌・モーニング)。食事メニューも豊富で、長居を推奨する独自のポジション。 |
| ④ 左下(低価格×短時間) | ドトール | 「毎日の活力・止まり木」 駅前立地が多く、圧倒的な提供スピードと安さが武器。サラリーマンが隙間時間にタバコを吸ったり、サクッとコーヒーを飲む機能性重視。 |
| ⑤ 左端(超低価格×超短時間) | コンビニコーヒー (セブンカフェ等) | 「いつでもどこでも・利便性最強」 味の品質は高いが、イートインスペースは最小限。「買うこと」自体に特化し、他チェーンのテイクアウト需要を奪うポジション。 |
【ここから見える戦略】
もしあなたが新しくカフェを出すなら、「スターバックス」の近く(おしゃれ×高価格)に配置するのは危険です。ブランド力で負ける可能性が高いからです。
逆に、「高品質なコーヒーを、スタンド形式でサクッと提供する(高価格×短時間)」という左上のエリアは、ブルーボトルコーヒーなどが進出していますが、まだ空き地があるかもしれません。
このようにマップを作ることで、どこが激戦区で、どこにチャンスがあるかが一目瞭然になります。
ポジショニング戦略を成功させるための実践ポイント
ポジショニングは一度決めたら終わりではありません。市場は常に変化しています。最後に、戦略を成功させ、維持するための実践的なポイントを紹介します。
顧客の選択基準(価格・品質・ブランドなど)を把握する方法
正しい軸を設定するためには、顧客が商品を買うときに「何を重視しているか(KBF:Key Buying Factors=重要購買決定要因)」を知る必要があります。これを知る最良の方法は、「顧客の声を聞くこと」です。
- アンケート調査: 「購入の決め手は何でしたか?」「他と比較しましたか?」と聞く。
- SNS検索: X(旧Twitter)やInstagramで、ユーザーがどんなタグ付けや感想を投稿しているか分析する。
- 対面インタビュー: なぜその商品を選んだのか、深掘りして聞く。
競合の強み・弱みを分析して勝ち筋を見つける視点
競合分析を行う際は、単に商品の良し悪しだけでなく、「競合が満たせていない不満(未充足ニーズ)」を探すのがコツです。
- 「大手A社は品質が高いが、サポートの電話が繋がりにくい」
→ 「うちは24時間チャットサポートで安心を提供する」 - 「人気店Bは美味しいが、予約が取れない」
→ 「予約不要でサクッと美味しい店」
競合の「弱点」や「隙」は、自社にとっての最大のチャンス(差別化ポイント)になります。
STPとポジショニングを改善し続けるためのチェックリスト
ポジショニング戦略を実行した後も、定期的に以下の項目をチェックし、ズレが生じていないか確認しましょう。
- ターゲット顧客は想定通り反応しているか?
- 競合他社が自社のポジションを模倣してきていないか?
- 顧客のニーズ(流行や価値観)が変わっていないか?
- 自社の強み(リソース)は維持できているか?
- そのポジションで利益は確保できているか?
もし反応が悪ければ、ターゲット設定(T)が間違っているか、ポジショニング(P)のメッセージが響いていない可能性があります。その場合は恐れずに、もう一度マップを描き直し、戦略を修正(リポジショニング)しましょう。
まとめ|ポジショニングのやり方とSTP分析の重要ポイントを整理
本記事では、STP分析を用いたポジショニングのやり方と、マップ作成の具体的なステップについて解説してきました。最後に要点を振り返ります。
ポジショニング戦略で最も重要な要素(顧客・競合・自社の三角軸)
ポジショニングとは、単なるキャッチコピー作りではありません。「顧客(Customer)に求められ」「競合(Competitor)と差別化され」「自社(Company)が実現可能」な独自の立ち位置を見つける経営戦略そのものです。この3つのバランスが崩れると、独りよがりな商品になったり、競争に埋もれたりしてしまいます。
STP分析からマップ作成までの流れを短く再確認
- Segmentation: 様々な変数で市場を切り分ける。
- Targeting: 6R(特に競合と到達可能性)を意識して狙う層を絞る。
- Positioning: ターゲットに対する提供価値を定義する。
- Mapping: 独立した2軸でマップを作り、空いている「勝ち筋」を可視化する。
戦略を実行する際に必ず押さえるべき判断ポイント
最も重要なのは、「軸選び」です。顧客が重視しない軸でいくら差別化しても、それは売上につながりません。常に「顧客の声」を起点に、ポジショニングマップを作成してください。
ポジショニングがカチッとはまれば、無理な売り込みをしなくても、顧客の方から「あなたにお願いしたい」と選ばれるようになります。ぜひ今回のやり方を参考に、あなたのビジネスだけの「最強のポジション」を見つけ出してください。



