
新しいビジネスを始める、または新しい製品やサービスを市場に投入する際、その成功の可能性を事前に把握することは非常に重要です。そこで、市場の大きさを表す指標となるのが「TAM、SAM、SOM」です。
TAMは「獲得可能な最大市場規模」、SAMは「実際に参入している製品・サービスが対象としている市場規模」、SOMは「現実的に獲得が期待できる市場規模」を意味します。
この記事では、TAM、SAM、SOMのそれぞれの定義、計算方法、そして具体的な活用方法を、初心者の方でも理解できるようわかりやすく解説します。これらの知識を身につけ、ビジネスの成功への第一歩を踏み出しましょう。さらに、"新規事業" や"マーケティング"戦略を考える上での応用方法についても触れていきます。
目次
TAM, SAM, SOMとは?基礎知識
TAM, SAM, SOMとは?それぞれの定義を解説
ビジネスの世界では、新しい事業を始めたり、マーケティング戦略を立てたりする際に、市場の大きさを把握することがとても重要です。そこでよく使われるのが、TAM、SAM、SOMという3つの指標です。これらは、市場規模を異なる視点から表す言葉で、それぞれに意味と計算方法が異なります。
- TAM (Total Addressable Market)
日本語で「獲得可能な最大市場規模」と訳されます。これは、理論上、自社の製品やサービスが獲得できる可能性のある市場の大きさ全体を示します。 - SAM (Serviceable Available Market)
日本語で「実際に参入している製品・サービスが対象としている市場規模」と訳されます。これは、TAMの中で、実際に自社の製品やサービスが対象としている市場の大きさを示します。 - SOM (Serviceable Obtainable Market)
日本語で「実際に獲得が期待できる市場規模」と訳されます。これは、SAMの中で、自社が現実的に獲得できると見込んでいる市場の大きさを示します。
市場規模を理解する重要性と目的
なぜ市場規模を理解することが重要なのでしょうか?それは、市場規模を知ることで、ビジネスの可能性や成長性を判断し、適切な戦略を立てることができるからです。
TAM, SAM, SOMという3つの指標を用いて市場規模を段階的に分析することで、より現実的で効果的な事業計画を策定できます。
また、投資家にとっても、これらの指標は投資判断をする上で重要な判断材料となります。TAM, SAM, SOMは、新規事業の立ち上げやマーケティング戦略を考える上で、欠かせない考え方なのです。
TAM(Total Addressable Market)の意味と計算方法
TAMの定義:対象市場全体の規模とは
TAM (Total Addressable Market)とは、先述の通り、「理論上、自社の製品やサービスが獲得できる可能性のある市場の大きさ全体」 を指します。つまり、理想的な状況下で、世界中の誰もが自社の製品やサービスを利用した場合の、最大の市場規模を意味します。例えば、あなたが世界中で販売可能なスマートフォン用の新しいゲームアプリを開発したとします。この場合、TAMは「世界中のスマートフォンユーザー全員」が対象となる、非常に大きな市場規模になります。
TAMの計算方法:具体例を用いた解説
TAMの計算方法には、大きく分けてトップダウンアプローチとボトムアップアプローチの2つがあります。
トップダウンアプローチ
トップダウンアプローチは、市場全体のデータからTAMを算出する方法です。市場調査会社のレポートや政府の統計データなどを活用し、全体の市場規模を推計します。
例: 世界のスマートフォンゲーム市場規模が10兆円とされている場合、新しいゲームアプリのTAMは、ざっくりと10兆円と考えることができます。
ボトムアップアプローチ
ボトムアップアプローチは、顧客一人当たりの売上を推計し、それを顧客数で掛けてTAMを算出する方法です。
例: 1ユーザーあたりの平均課金額が年間1,000円と推定され、世界のスマートフォンユーザーが50億人と仮定した場合、TAMは 1,000円 × 50億人 = 5兆円 となります。
TAMを活用するメリットと注意点
メリット:
- 市場全体のポテンシャルを把握できる
- 将来的な事業の可能性を判断する材料になる
注意点:
- あくまで理論上の最大値であり、現実的な数値ではない
- 調査データの精度に依存する
SAM(Serviceable Available Market)の意味と計算方法
SAMの定義:ターゲット市場の現実的な範囲とは
SAM (Serviceable Available Market)とは、「TAMの中で、実際に自社の製品やサービスが対象としている市場の大きさ」 を指します。つまり、TAMという大きな市場の中から、自社の製品やサービスの特性、販売チャネル、地域などを考慮して、現実的にターゲットとできる市場規模のことです。例えば、先ほどのスマートフォンゲームアプリの例で言えば、日本語にしか対応していない場合、SAMは「日本語を理解できるスマートフォンユーザー」に限定されるでしょう。
SAMの計算方法:分かりやすい具体例で解説
SAMを算出するには、TAMをより具体的なセグメントに絞り込む必要があります。市場を地理的要因、顧客の属性、製品・サービスの特性などで細分化し、その中で自社がアプローチできる部分を特定します。
例: 新しいゲームアプリが日本語にしか対応しておらず、主に日本の若年層をターゲットとしているとします。この場合、
- TAM(世界のスマートフォンゲーム市場)から、日本語を理解できるユーザー層を抽出します。
- さらに、その中から、ターゲットとする年齢層(例えば、10代~20代)に絞り込みます。
- これらの条件に合致するユーザー数や市場規模のデータを調査し、SAMを算出します。
SAMを正しく理解するためのポイント
SAMを理解する上で重要なのは、自社の製品やサービスが誰に向けたものなのかを明確にすることです。そして、そのターゲット層が実際に存在する市場規模を、現実的な視点で算出することが求められます。マーケティングにおけるターゲット設定とも密接に関わる部分と言えるでしょう。
SOM(Serviceable Obtainable Market)の意味と計算方法
SOMの定義:実際に獲得可能な市場とは
SOM (Serviceable Obtainable Market)とは、「SAMの中で、自社が現実的に獲得できると見込んでいる市場の大きさ」 を指します。つまり、SAMというターゲット市場の中で、競合他社の存在や自社の営業力、マーケティング戦略などを考慮して、実際に獲得できると予測される市場シェアのことです。
先ほどの日本語対応のスマートフォンゲームアプリの例で言えば、既に多くの競合が存在する中で、自社が獲得できるユーザー数がSOMとなります。
SOMは、最も現実的な目標数値となるので直近で目指すべき売上目標として使われることが多くなります。
SOMの計算方法:具体例を交えた説明
SOMを算出するには、SAMの中で自社が獲得できる市場シェアを予測する必要があります。これには、競合分析や自社の強み・弱みの分析、過去の販売実績データなどが活用されます。
例:
- SAM(日本語を理解できる日本の若年層スマートフォンユーザーの市場規模)が100億円とします。
- 競合分析や自社のマーケティング戦略から、この市場で5%のシェアを獲得できると予測します。
- この場合、SOMは 100億円 × 5% = 5億円 となります。
SOMをビジネス戦略に活用する方法
SOMは、短期的な事業計画や売上目標を立てる際に非常に役立ちます。 現実的な目標数値を設定することで、リソースの適切な配分や効果的な施策の実施が可能になります。また、投資家に対して、事業の実現可能性や成長性を説明する際にも、SOMは重要な指標となります。新規事業を始める場合は特にこの指標を重視しましょう。
TAM, SAM, SOMの関係性と違いを比較
各市場規模の違いを図解で比較
ここまで、TAM, SAM, SOMについて個別に解説してきました。ここでは、それぞれの関係性と違いを、図を使って視覚的に理解していきましょう。
指標 | 意味 | 計算の視点 | 例え |
---|---|---|---|
TAM | 理論上獲得できる最大の市場規模 | 市場全体のポテンシャル | 世界中のスマートフォンユーザー |
SAM | TAMの中で、実際に自社の製品・サービスが対象としている市場規模 | 自社がターゲットとする市場 | 日本語を理解できるスマートフォンユーザー |
SOM | SAMの中で、実際に獲得できると見込んでいる市場規模 | 自社が獲得できると予測される市場シェア | 日本語を理解できる若年層で自社ゲームを利用するユーザー |
これらの指標は、大きな市場から徐々に焦点を絞り込んでいくイメージです。TAMで市場全体の可能性を把握し、SAMでターゲットを明確化し、SOMで現実的な目標を設定するという流れで理解すると良いでしょう。
各指標を使い分けるポイント
- TAM: 長期的な事業の可能性を検討する際に使用
- SAM: 中期的な事業計画やターゲット市場を分析する際に使用
- SOM: 短期的な売上目標や事業計画を立案する際に使用
TAM, SAM, SOMの具体例での理解
身近な業界の具体例を用いたTAM, SAM, SOMの適用
ここでは、より理解を深めるために、身近な業界を例にTAM, SAM, SOMを見ていきましょう。
例:オンライン英会話スクール
- TAM: 世界の英語学習者人口
- SAM: インターネット環境があり、オンラインで英語学習をする意欲のある日本人
- SOM: 競合他社や自社のサービスレベル、マーケティング戦略を考慮し、実際に獲得できると見込む日本人顧客数
この例では、TAMは非常に大きな市場規模になりますが、実際にサービスを提供できる範囲(SAM)は限定されます。さらに、その中で実際に獲得できる顧客数(SOM)は、さらに絞り込まれます。
実際の企業が活用する方法を紹介
多くの企業が、新規事業の立ち上げやマーケティング戦略の策定にTAM, SAM, SOMを活用しています。例えば、
- スタートアップ企業: 投資家向けに事業計画書を作成する際に、TAM, SAM, SOMを用いて市場の可能性や成長性を示す
- 大手企業: 新規事業を立ち上げる際の市場調査や事業性評価に活用する
- マーケティング部門: ターゲット市場を明確化し、効果的なマーケティング施策を立案するために活用する
このように、TAM, SAM, SOMは、様々な場面で活用されているのです。
TAM, SAM, SOMを活用した市場戦略の立案方法
データを基にした市場分析のステップ
TAM, SAM, SOMを活用して市場戦略を立案するには、以下のステップで進めると効果的です。
- 市場調査: 信頼できるデータソースから、市場規模に関する情報を収集します。
- TAMの算出: トップダウンアプローチやボトムアップアプローチを用いて、TAMを算出します。
- SAMの算出: TAMをセグメント化し、自社のターゲット市場を明確化して、SAMを算出します。
- SOMの算出: 競合分析や自社の強み・弱みの分析を行い、SAMの中で獲得できる市場シェアを予測して、SOMを算出します。
- 戦略立案: TAM, SAM, SOMの分析結果を基に、具体的な事業計画やマーケティング戦略を立案します。
TAM, SAM, SOMを戦略に活かすためのヒント
- 定期的な見直し: 市場環境は常に変化します。定期的にTAM, SAM, SOMを見直し、戦略をアップデートすることが重要です。
- 複数のシナリオを想定: 楽観的なシナリオだけでなく、悲観的なシナリオも想定しておくことで、リスク管理に繋がります。
- 顧客視点の重視: 常に顧客のニーズを意識し、製品やサービスの開発、マーケティング戦略に反映させましょう。
- データに基づいた意思決定: 可能な限りデータを収集、分析し、判断するようにしましょう。
TAM, SAM, SOMを正しく理解してビジネスに活用しよう
TAM, SAM, SOMを活用して成功するための次のステップ
TAM, SAM, SOMは、あくまでも市場規模を把握するためのツールです。これらの指標を活用してビジネスを成功させるためには、顧客のニーズを深く理解し、競合との差別化を図り、効果的なマーケティング戦略を実行することが重要です。
今回学んだ知識を活かし、ぜひ自社のビジネスにTAM, SAM, SOMを取り入れてみてください。そして、市場の可能性を最大限に引き出し、事業の成長に繋げましょう!