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バランススコアカード(BSC)とは?意味・目的・使い方を簡単に理解する

バランススコアカード(BSC)とは?意味・目的・使い方を簡単に理解する

バランススコアカードは、現代の複雑なビジネス環境において、企業の進むべき道を示す羅針盤となる重要な経営管理フレームワークです。

この記事では、バランススコアカードとは何か、その基本的な意味から、戦略を具体的な行動計画に落とし込むための5つの構成要素(KGI・CSF・KPI・ターゲット・アクションプラン)を使った具体的な使い方まで、誰にでも理解できるよう丁寧に解説していきます。

この記事でわかること

  • バランススコアカードの基礎知識と、ビジネスに導入するメリット
  • 戦略を具体的な計画にするための5つの構成要素(KGI・CSF・KPIなど)の役割
  • 会社のビジョンを現場の具体的なアクションプランに落とし込む方法

バランススコアカードとは何か

まず初めに、バランススコアカード(BSC)がどのようなものなのか解説します。

バランススコアカードとは

バランススコアカード(BSC)とは、企業のビジョンと戦略を具体的なアクションプランに落とし込み、その実行状況を多角的に測定・評価するための経営管理手法です。1992年にハーバード・ビジネス・スクールのロバート・キャプラン教授と、コンサルタントのデビッド・ノートン氏によって提唱されました。

その名の通り「バランス」が重要なキーワードです。従来の経営管理が、売上や利益といった「財務的な指標(結果)」に偏りがちだったのに対し、BSCではそれらに加えて、「顧客」「業務プロセス」「学習と成長」という3つの非財務的な指標(結果に至るまでのプロセス)をバランス良く見ていこう、という考え方が根幹にあります。

つまり、単なる業績評価ツールではなく、企業のビジョンや戦略を組織の隅々まで浸透させ、全社一丸となって目標達成に向かうためのコミュニケーションツールであり、戦略実行(マネジメント)システムなのです。

バランススコアカードが注目される理由

では、なぜ今、バランススコアカードが多くの企業で注目されているのでしょうか。その背景には、現代のビジネス環境の大きな変化があります。

  1. 経済のソフト化と無形資産の重要性の高まり
    かつては工場や設備といった「有形資産」が企業の競争力の源泉でした。しかし現代では、技術力、ブランド、顧客との関係、従業員のスキルといった目に見えない「無形資産」の価値が飛躍的に高まっています。BSCは、こうした財務諸表には現れにくい無形資産を「学習と成長の視点」や「顧客の視点」で可視化し、戦略的に強化することを可能にします。
  2. 変化の激しい経営環境
    将来の予測が困難な現代(VUCA:変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)においては、過去の実績である財務指標だけを頼りに経営の舵取りをするのは非常に危険です。BSCを導入することで、変化の兆候を非財務指標から早期に察知し、迅速に戦略を修正していくアジャイルな経営が実現しやすくなります。
  3. 戦略と現場の乖離を防ぐ必要性
    どんなに優れた経営戦略を立てても、それが現場の従業員一人ひとりの日々の業務に落とし込まれなければ「絵に描いた餅」で終わってしまいます。バランススコアカードとは、ビジョンや戦略という抽象的な目標を、具体的な行動目標(KPI)にまでブレークダウンする仕組みを持つため、経営層と現場のベクトルを合わせ、戦略の実行力を格段に高める効果が期待できるのです。

バランススコアカードの目的と導入のメリット

BSCを導入することは、企業にどのような良い影響をもたらすのでしょうか。その目的と具体的なメリットについて掘り下げていきましょう。

数値だけでは測れない戦略の実行力を高める仕組み

バランススコアカードの最大の目的は、「戦略の実行力を高めること」にあります。

多くの企業が抱える悩みの一つに、「戦略が実行されない」というものがあります。その大きな原因は、戦略が曖昧で、従業員が「結局、自分は何をすれば会社の方針に貢献できるのか」を理解できていない点にあります。

BSCは、後述する「戦略マップ」というツールを用いて、「人材を育成し(学習と成長)、業務プロセスを改善すれば(業務プロセス)、顧客満足度が高まり(顧客)、その結果として収益が向上する(財務)」といった形で、ビジョン達成までの戦略的な因果関係を可視化します。

これにより、従業員は自分の仕事が会社全体のどの部分に、どのように貢献しているのかを明確に理解できるようになります。結果として、やらされ仕事ではなく、自律的に戦略目標達成に向けた行動をとれるようになり、組織全体の戦略実行力が飛躍的に向上するのです。

従来の業績評価との違いと導入効果

BSCは、従来の財務指標を中心とした業績評価とは一線を画します。その違いと、導入によって得られる具体的な効果を整理してみましょう。

比較項目従来の業績評価バランススコアカード(BSC)
評価の視点財務指標が中心(単眼的)財務・顧客・業務プロセス・学習と成長の4視点(多角的)
時間軸過去の実績を評価(過去志向)将来の成功要因を管理(未来志向
主たる目的予算達成度の管理・統制(結果管理)ビジョンと戦略の実行(戦略マネジメント
情報伝達トップダウン型が中心戦略の因果関係を共有(双方向コミュニケーション

このような違いから、BSCを導入・運用することで、以下のような効果が期待できます。

  • ビジョン・戦略の全社的な共有と浸透
  • 財務指標と非財務指標のバランスの取れた経営
  • 戦略に基づいた具体的なアクションプランの策定
  • 組織および個人の目標の明確化とモチベーション向上
  • 経営環境の変化に対応した迅速な戦略の見直し

バランススコアカードの4つの視点と構成要素

ここからは、BSCの核となる「4つの視点」を、ご指定の**5つの構成要素(KGI・CSF・KPI・ターゲット・アクションプラン)**に沿って具体的に解説します。この構造こそが、戦略を具体的な行動に変える設計図です。

財務の視点:企業の収益性をどう高めるか

問い:「株主や従業員から見て、経済的に成功するためにどう行動すべきか?」

企業活動の最終的なゴールです。他の3つの視点の活動が、最終的にどう財務成果に結びつくかを示します。

構成要素内容例
KGI (重要目標達成指標)営業利益10%向上
CSF (重要成功要因)新規市場での売上拡大
KPI (重要業績評価指標)新規市場における顧客獲得数
ターゲット半期で新規顧客を50社獲得する
アクションプラン・新規市場向けの製品セミナーを月2回開催
・ターゲットリスト100社を作成し、営業担当5名で分担してアプローチ

顧客の視点:顧客満足と市場での位置づけ

問い:「ビジョンを達成するために、顧客に対してどう行動すべきか?」

ターゲット顧客にどのような価値を提供し、満足度を高め、選ばれ続けるかを定義します。

構成要素内容例
KGI (重要目標達成指標)顧客満足度No.1の実現
CSF (重要成功要因)既存顧客へのサポート体制強化
KPI (重要業績評価指標)顧客アンケートの満足度スコア
ターゲット満足度スコアを平均4.5点以上にする(5点満点)
アクションプラン・サポート部門に2名増員<br>・顧客向けFAQサイトを全面リニューアル
・月1回、主要顧客へのヒアリング会を実施

業務プロセスの視点:業務効率と品質改善

問い:「財務目標の達成や顧客満足のために、どの業務プロセスを改善すべきか?」

顧客に高い価値を提供するための社内プロセスを対象とします。効率化や品質向上、イノベーションなどが含まれます。

構成要素内容例
KGI (重要目標達成指標)製品の納期遵守率100%
CSF (重要成功要因)生産リードタイムの短縮
KPI (重要業績評価指標)平均生産リードタイム
ターゲット平均10日間かかっているリードタイムを7日間に短縮する
アクションプラン・生産工程AとBの間の待ち時間を調査し、ボトルネックを解消<br>・部品調達先の見直しと発注プロセスのデジタル化

学習と成長の視点:人材育成と組織能力の強化

問い:「ビジョンを達成するために、変化し改善する能力をどう維持すべきか?」

他の3つの視点すべてを支える土台です。人材のスキル、組織風土、情報システムといった無形資産が対象です。

構成要素内容例
KGI (重要目標達成指標)データ活用文化の醸成
CSF (重要成功要因)全従業員のデータ分析スキル向上
KPI (重要業績評価指標)データ分析研修の受講完了率
ターゲット対象従業員の90%以上が研修を完了する
アクションプラン・レベル別のデータ分析研修プログラムを導入
・研修内容と連動した実務課題(OJT)を設定
・各部門にデータ活用推進リーダーを任命

バランススコアカードの使い方と実践手順

では、実際に5つの構成要素を使って、どのようにBSCを構築・運用していくのか、そのステップを見ていきましょう。

戦略マップの作成と目標設定の流れ

バランススコアカード(BSC)記入例

まず、組織のビジョンと戦略を達成するための因果関係のストーリーを描いた「戦略マップ」を作成します。これは、4つの視点におけるKGI(重要目標達成指標)とCSF(重要成功要因)を洗い出し、それらを矢印で繋いだものです。

  • ステップ1:ビジョンと戦略の明確化
    • 「我々は何を目指すのか?」という企業の存在意義や将来像を再確認します。
  • ステップ2:4つの視点でのKGI・CSFの洗い出し
    • ビジョン達成のために「何が成功の鍵か?」を各視点で考え、KGI・CSFを抽出します。
  • ステップ3:戦略マップの作成
    • KGI・CSFを4つの視点に配置し、矢印で結びつけます。例えば、「(学習と成長)スキル向上」→「(業務プロセス)開発力強化」→「(顧客)製品満足度向上」→「(財務)売上向上」といったストーリーを可視化します。

KPI(重要業績評価指標)の設定方法と活用例

戦略マップでKGI・CSFの繋がりを可視化したら、次はそのKGI・CSFを具体的な「バランススコアカード」に落とし込みます。

  • ステップ4:5つの構成要素を定義する
    • 戦略マップ上の各KGI・CSFに対して、「KGI → CSF → KPI → ターゲット → アクションプラン」の5点セットを具体的に定義していきます。
    • KGIはCSFが最終的に目指すゴール、KPIはCSFの進捗を測るものさしです。
    • ターゲットで具体的な目標数値を定め、アクションプランで「誰が・いつまでに・何をするか」を明確にすることで、戦略が初めて実行可能な計画になります。

PDCAによる継続的改善と運用のポイント

BSCは作って終わりではありません。環境の変化に対応し、戦略を常に進化させるためのPDCAサイクルを回すことが不可欠です。

  • Plan(計画): 戦略マップとバランススコアカードを作成する。
  • Do(実行): 定義したアクションプランを実行する。
  • Check(評価): 定期的にKPIの進捗をモニタリングし、ターゲットの達成状況を確認する。
  • Act(改善): 結果を分析し、アクションプランの見直しや、場合によってはKPI・ターゲット、さらにはCSF自体の修正を行う。

このサイクルを回し続けることで、組織は常に学習し、戦略の精度を高めていくことができます。

バランススコアカードの活用事例と導入ヒント

中小企業や大企業での導入事例

  • 大企業: 全社レベルのBSCを頂点に、事業部・部門へと展開し、組織全体の目標の整合性を図ります。
  • 中小企業: 経営資源を集中させるべき戦略の焦点を明確にし、全社一丸となるために活用されます。経営者の戦略を可視化し、事業承継に役立てるケースもあります。

業種別(製造業・サービス業など)の活用パターン

  • 製造業: 「業務プロセスの視点」で品質(不良品率)、コスト(原価率)、納期(リードタイム)に関するKPIが重視される傾向があります。
  • サービス業: 「顧客の視点」での顧客満足度やリピート率、それを支える「学習と成長の視点」での従業員満足度などが重要なKPIとなります。

まとめ:バランススコアカードとは戦略を現場に落とし込むためのフレームワーク

バランススコアカードの本質と効果を再確認

改めて、バランススコアカードとは何か。それは、財務と非財務、短期と長期、結果とプロセスのバランスを取りながら、「ビジョン(夢)」を「KGI・CSF・KPI・ターゲット・アクションプラン(現実の計画)」という具体的な5つの要素に分解し、組織の隅々まで浸透させるための最強の戦略実行ツールです。

自社に合った形でBSCを導入するために必要な視点

  1. テンプレートの丸写しはしない
    他社の事例は参考になりますが、必ず自社のビジョン、戦略、文化に合わせてカスタマイズすることが重要です。
  2. 最初から完璧を目指さない
    まずは最も重要な戦略目標に絞ってスモールスタートし、運用しながら改善を重ねていくアプローチが現実的です。
  3. 「導入」をゴールにしない
    BSCはあくまで経営を良くするための「ツール」です。導入すること自体が目的になってはいけません。経営層と従業員が対話し、共に戦略を実行していくための道具として使いこなす意識を持ち続けることが、最も大切な成功の秘訣と言えるでしょう。

この記事が、バランススコアカードとは何かを理解し、あなたのビジネスを次のステージへ進める一助となれば幸いです。

  • この記事を書いた人

ZIDAI Notebook 編集部

新規事業開発支援、生成AIを活用したDX支援を実施する株式会社ZIDAIの事業開発、AI情報メディア「ZIDAI Notebook」。 多くの事業開発やAIを活用した開発を行ってきたBizDev、エンジニアの監修の元、情報をお届けします。

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