
直接材・間接材のコスト削減にAIを使うとは、購買データを比べられる状態にそろえ、見積の比較、納期や数量の調整、書類の確認といった購買担当者の作業を支える使い方のことです。AIが単価を自動で下げてくれるわけではありません。
中小企業基盤整備機構(中小機構)の調査(2026年3月)では、AIを導入した中小企業が挙げた導入目的は「業務効率化/作業時間の短縮」が87.0%で、「コスト削減」は14.8%でした。調達の分野では、NECが2025年12月に提供を始めた調達交渉AIのサービスについて、同社のグループ会社で約1,300品目の納期・数量を調整した検証で、AIだけで合意に至った割合は95%だったと発表しています。対象は納期と数量の調整で、価格の交渉を自動化した事例としては書かれていません。
「AIでコスト削減」と聞くと、単価が下がる話を思い浮かべがちです。ところが、今回確認できた公表事例では、比べる材料をそろえる作業や、調整にかかる時間を減らす作業に使われているものが中心です。
直接材と間接材で、AIの使いどころはどう違うのか?
直接材は製品に使う部品や資材、間接材は事務用品や消耗品など、製品には組み込まれない物品やサービスです。三菱重工では、直接材の調達・購買は主に各事業部や工場の調達部門が担っていると、IT Leaders(2026年6月29日)が伝えています。一方、Coupa社の導入事例ページで、三菱重工の担当者は、間接費は総務、人事、営業、設計、工作などの部署で個別に調達され、調達実績を統合的に把握する仕組みも整っていなかったと話しています。
| 項目 | 直接材 | 間接材 |
|---|---|---|
| 調達の担い手 | 主に事業部や工場の調達部門 | 複数の部門が個別に調達しやすい |
| コスト削減の主な論点 | 単価の妥当性、仕入先の選定、納期・数量の調整 | 支出の把握、発注の集約、仕入先の絞り込み、発注の手間 |
| AIの使いどころ | 見積の比較・査定の材料づくり、納期・数量の調整 | 購買記録の整理と支出の見える化、書類・問い合わせの省力化 |
| 先に必要なもの | 見積・図面・発注実績が探せる状態 | 品目・部門・仕入先がそろった購買記録 |
調達の担い手の行は、三菱重工の例です。論点とAIの使いどころの行は、ZIDAIの整理です。
数字で見る現状:AIは「コスト削減」より「作業時間の短縮」に使われている
| 調査 | 項目 | 結果 |
|---|---|---|
| 中小機構(2026年3月) | 中小企業のAI導入率 | 20.4%(回答1,647社) |
| 中小機構 | AIの導入目的(導入企業、複数回答) | 業務効率化・作業時間の短縮 87.0%、品質向上 32.3%、コスト削減 14.8% |
| 中小機構 | AIの導入効果(導入企業、複数回答) | 業務効率化・作業時間の短縮 83.2%、コスト削減 13.1% |
| 中小機構 | 導入済みのAIサービス | 生成AI 82.6%(導入企業322社) |
| A1A(2026年2月) | 見積査定や価格目標設定で、データにもとづいて判断する頻度 | 「5割以下」と答えた人が過半数 |
| A1A | 調達購買業務の課題 | 価格交渉の根拠データ不足 53件、過去の見積データの散在 52件 |
| A1A | すでにAIを導入・試験中の人の活用領域 | 契約書・文書の自動レビュー・要約 50.0%、調達価格の予測やサプライヤー選定 25.0% |
| A1A | AI活用を阻む要因 | AI人材の不足 17.5%、費用対効果が不透明 17.5%、データの整備状況が不十分 17.1% |

中小機構の調査は、業種を限らない中小企業が対象で、製造業や調達部門に限った数字ではありません。A1Aの調査は、製造業の調達購買担当者のうち、調達データプラットフォーム「UPCYCLE」を提供する同社のメールマガジン購読者104名が回答したものです。回答者に偏りがある可能性があります。活用領域の割合は、AIを導入・試験中の人が対象で、その人数はリリースに書かれていません。
AIの導入目的も導入効果も、コスト削減より作業時間の短縮のほうが上位に挙がっています。調達についても、A1Aの調査では、契約書や文書の確認が最多で、価格の予測やサプライヤー選定への活用は進んでいないとされています。
直接材・間接材のコスト削減にAIを使う4つの場面
公表されている事例と調査から、使いどころを4つに整理しました。

1. 間接材:購買の記録をそろえて、支出を見える化する
三菱重工グループは、国内では拠点ごとに購買システムが異なり、海外ではExcelや手書き伝票による処理が中心の拠点も多かったと、IT Leadersの記事は伝えています。同社はビジネス支出管理プラットフォーム「Coupa」で記録を統合し、AIを活用した支出の可視化にも取り組んでいます。記事の後半は会員限定のため、AIの使い方の詳細は確認できていません。
品名や仕入先名の表記のゆれをそろえる作業にAIを使える余地があるというのは、ZIDAIの見方です。公表された削減額や効果の数字は、今回の調査では見つかりませんでした。
2. 直接材:見積を比べて、価格の根拠をつくる
A1Aの調査では、調達購買業務のボトルネックとして「価格交渉の根拠データ不足」(53件)と「過去の見積データの散在」(52件)が多く挙がりました。同社は「UPCYCLE」について、見積書、図面、コミュニケーション履歴を構造化データとして集め、AIが類似部品の検索や原価低減余地の提案を行うサービスだと説明しています。
これはA1Aによるサービスの説明で、削減額などの成果の数字はリリースに書かれていません。AIが出すのは判断の材料で、価格を決めるのは担当者です。
3. 直接材:納期・数量の調整を自動化する
NECの調達交渉AIは、この使いどころの例です。納期回答の遅延や、生産計画の変更による前倒し依頼が出たときに、AIが仕入先と調整します。詳しくは次の章で説明します。
4. 直接材・間接材の共通:文書と問い合わせの確認を省力化する
A1Aの調査では、すでにAIを導入・試験中の人の活用領域は、契約書・文書の自動レビュー・要約が50.0%で最多でした。中小機構の調査でも、AIを導入した企業の82.6%が生成AIを使っています。
ただし、取引先の見積書や契約書を生成AIに入力するときは、どの情報を入れてよいかを先に決めておく必要があります。社内ルールの決め方は、生成AIの社内利用ルール、経営者が最低限決めておくべき7項目【記載例つき】で解説しています。
事例:NECの調達交渉AIで、何が自動化されたのか?
NECは2025年12月2日に「NEC 調達交渉AIエージェントサービス」の提供開始を発表しました。同社の自動交渉AIが、製造業の調達で納期・数量の調整を自律的に行うサービスです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 自動化した業務 | 発注済み部品の納期・数量の調整(納期回答の遅延、生産計画の変更による前倒し依頼など) |
| 検証の範囲 | NECグループ会社の全国の拠点、サプライヤ10社以上、約1,300品目(2024年9〜10月) |
| 自動合意達成率 | 95%(購買担当者が介在せず、AIのみで合意した割合)。2025年12月のリリースに記載があり、2024年11月の検証発表には数値の記載がない |
| 調整にかかる時間 | 従来の数時間〜数日から、約80秒(2025年12月のリリース)。2024年11月の検証発表では「数分単位」 |
| サービスの価格 | 年間3,600万円〜(別途初期費用)。提供目標は今後5年間で100社 |


この事例で自動化されたのは、納期と数量の調整です。リリースには、価格の交渉を自動化するという記述はありません。在庫の適正化や欠品の防止につながるため、コストに間接的に関わります。2024年の検証では、AIが購買側に立ち、仕入先の担当者(人)とチャットで調整しました。
数字はNECの発表で、NECグループ内の検証です。サービスの価格は年間3,600万円からで、自社の品目数や発注件数で見合うかは、試算して確かめる必要があります。
AIを入れる前に確認する5つの前提
次の5つはZIDAIの整理です。A1Aの調査では、AI活用を阻む要因に「データの整備状況が不十分」(17.1%)が挙がっており、三菱重工の事例でも、記録が分断されている状態が課題でした。
- 購買データが1か所に集まっている:見積、発注、請求の記録がばらばらだと、AIが読む対象がそろいません。
- 品名・型番・仕入先名の表記がそろっている:同じ品目が別の名前で登録されていると、集計しても比べられません。
- 見積書・図面・やり取りの履歴が探せる:A1Aの調査では、過去の見積データの散在が課題の上位でした。
- AIの出力を確認する人とルールが決まっている:判断を担当者が行う前提で、確認の手順を決めます。
- 効果を測る基準がある:発注1件あたりの作業工数、納品までの日数、同じ品目の単価のばらつきなどを、導入前に測っておきます。大日本印刷も、間接材の購買システムの効果を、発注1件あたりの作業工数とリードタイムで示しています。
AI以外の手段も選べます。日本CFO協会の2019年の調査リリースには、サプライヤーが分散しがちな品目では、カタログ購買やマーケットプレイスなど外部の調達サービスが、早期に効果を得やすいという記述があります。データがそろっていない段階では、集約や外部サービスで足りる品目もある、というのがZIDAIの見方です。
最初の進め方:1つの品目群で試す
全体に広げる前に、1つの品目群で試します。
- 品目群を1つ選びます。支出が大きい品目か、発注件数が多い品目が向いています。
- 現状の数字を測ります。単価、発注1件の工数、納品までの日数です。
- AIの出力と人の判断を並べて比べ、差が出るかを見ます。差が出なければ、その品目には向いていません。
AI導入全体の進め方は、生成AI導入は何から始めるべきか?経営者の最初の90日でやること7つで解説しています。
まとめ
直接材・間接材のコスト削減にAIを使うときは、AIが単価を下げると考えるより、比べる材料をそろえ、調整の時間を減らす道具として使うほうが、公表されている事例と合っています。中小機構の調査で、AIの導入目的にコスト削減を挙げた企業は14.8%でした。NECの調達交渉AIも、自動化したのは納期と数量の調整です。
最初にやることは、購買データが1か所に集まっているかの確認と、1つの品目群での試行です。AIの前に、集約や外部サービスで足りる品目があるかも見ておきます。
「自社の購買業務のうち、どこにAIを使うと効果が見込めるか」を業務の一覧から整理したい場合は、ZIDAIのAIアセスメントで、業務の一覧から削減時間と金額の試算、最初の90日の計画までを1冊のレポートにまとめています(10万円・税別、従業員50名以上の企業が対象)。まずは、1つの品目群の単価と工数を測るところから始めてみてください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 直接材・間接材のコスト削減に、AIは使えますか?
使える場面はあります。公表されている例では、購買記録の整理と支出の見える化、見積の比較材料づくり、納期・数量の調整、契約書などの文書の確認です。AIが単価を自動で下げるわけではなく、担当者の判断を支える使い方が中心です。
Q2. AIで、コストは何%下がりますか?
AIの導入によるコスト削減率を示す公的な数字は、今回の調査では確認できませんでした。中小機構の調査では、AIの導入効果としてコスト削減を挙げた企業は13.1%でした。NECの事例で示された数字は、コスト削減率ではなく、合意達成率と調整時間です。
Q3. 直接材と間接材は、どちらから始めるべきですか?
決まった正解はありません。ZIDAIの見方では、購買記録が分散している企業は、間接材の記録を集めることから始めやすく、見積や図面が探せる企業は、直接材の見積比較から試しやすいです。まず、どちらのデータが整っているかを確かめます。
Q4. 調達交渉AIとは何ですか?
仕入先との調整をAIが代わりに行う仕組みです。NECのサービスは、納期と数量の調整を対象にしています。NECの検証では、購買担当者が介在せずAIだけで合意した割合が95%でした。リリースに、値引きなど価格の交渉を自動化するという記述はありません。
Q5. AIを入れる前に、何を準備すればよいですか?
購買データが1か所に集まっているか、品名や仕入先名の表記がそろっているか、見積書や図面が探せるか、AIの出力を確認する人が決まっているか、効果を測る基準があるか、の5つを確認します。
Q6. 中堅・中小の製造業でも導入できますか?
生成AIは、文章・資料の作成などを中心に、中小企業でも使われています。中小機構の調査では、AIを導入した企業の82.6%が生成AIを使っています。一方、NECの調達交渉AIは年間3,600万円からで、品目数や発注件数に応じた試算が必要です。

