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生成AIで暗黙知を形式知化するには?プロセスや活用テクノロジーについて解説

長年の経験や勘に基づく知識、いわゆる「暗黙知」は、企業や組織にとって貴重な財産です。しかし、暗黙知は個人の内に秘められているため、共有や継承が難しいという課題があります。

そこで近年注目されているのが、生成AIを活用した暗黙知の形式知化です。今回は、生成AIを用いて暗黙知を形式知に変換するプロセスや、活用できるテクノロジー、具体的な事例について、初心者にもわかりやすく解説します。

暗黙知の形式知化は、新規事業の創出やマーケティング戦略においても重要な役割を果たす可能性があります。

この記事でわかること

  • 生成AIによる暗黙知形式知化の方法と、使えるAIツールがわかる。
  • AI形式知化のメリット・デメリットと、今後の課題がわかる。

暗黙知とは何か?その特徴と課題

暗黙知の定義と種類

暗黙知とは、言葉や文章で表現することが難しい知識のことです。長年の経験や勘、直感などに基づいており、個人の内に蓄積されています。暗黙知には、以下のような種類があります。

種類説明
技能的な暗黙知体で覚えた知識や技術自転車の乗り方、楽器の演奏、熟練工の技
認知的な暗黙知無意識のうちに行っている思考プロセスや判断ベテラン医師の診断、トップセールスの交渉術
関係性的な暗黙知特定の状況や人間関係の中で培われる知識顧客との信頼関係構築、チーム内の暗黙のルール

暗黙知が形式知化しづらい理由

暗黙知は、以下のような理由から形式知化が困難です。

  • 言語化の難しさ: 暗黙知は、言葉で表現しにくい感覚的な要素を多く含むため、言語化が難しい。
  • 無意識性: 暗黙知は、無意識のうちに行っていることが多いため、本人も気づいていない場合がある。
  • 属人性: 暗黙知は、特定の個人に依存しているため、他の人に伝えることが難しい。
  • 文脈依存性: 暗黙知は状況によって変化するため、一般化することが困難。

形式知化とは?知識変換の基本概念を押さえる

形式知と暗黙知の違い

形式知とは、言葉や文章、図表などを用いて、明確に表現された知識のことです。暗黙知とは対照的に、形式知は客観的で、誰にでも理解・共有・利用が可能です。

区分暗黙知形式知
特徴言語化が難しい、主観的、属人的言語化されている、客観的、共有可能
熟練工の勘、ベテラン医師の診断マニュアル、手順書、データベース
伝達方法OJT(On-the-Job Training)、徒弟制度研修、会議、ドキュメント

SECIモデルにおける知識変換プロセス

形式知化のプロセスを理解するためには、野中郁次郎氏と竹内弘高氏が提唱した「SECIモデル」が参考になります。SECIモデルは、組織内で知識が創造・共有されるプロセスを、以下の4つのモードで説明しています。

  1. 共同化 (Socialization)
    暗黙知から暗黙知への変換。経験を共有することで、知識が伝わる。
  2. 表出化 (Externalization)
    暗黙知から形式知への変換。対話やメタファーを通じて、知識を言葉にする。
  3. 連結化 (Combination)
    形式知から形式知への変換。複数の形式知を組み合わせて、新たな知識を創造する。
  4. 内面化 (Internalization)
    形式知から暗黙知への変換。形式知を実践することで、自分の知識として習得する。

AIによる暗黙知の形式知化が注目される理由

人材不足・属人化解消への期待

少子高齢化による労働人口の減少や、ベテラン社員の退職により、企業は深刻な人材不足に直面しています。AIを活用して暗黙知を形式知化することで、貴重な知識や技術を次世代に継承し、属人化のリスクを軽減することが期待されています。これはマーケティングにおいても、顧客対応の均質化に繋がります。

組織の生産性向上とナレッジ共有の推進

AIを活用することで、これまで言語化されていなかった知識を形式知として蓄積し、組織全体で共有することが可能になります。これにより、業務効率が向上し、生産性が高まるだけでなく、新たなアイデアの創出や問題解決の迅速化にもつながります。

生成AIで暗黙知を形式知化する基本プロセス

暗黙知の収集と構造化

  1. 暗黙知の特定
    どの知識を形式知化するかを明確にする。
  2. 情報収集
    インタビュー、アンケート、行動観察、動画・音声記録など、様々な方法で暗黙知に関する情報を収集する。
  3. 構造化
    収集した情報を、キーワードやカテゴリで分類・整理し、体系化する。

生成AIによる要約・テンプレート化

  1. 生成AIへの入力
    構造化した情報を、ChatGPTなどの生成AIに入力する。
  2. 要約・文章生成
    生成AIに、情報を要約させたり、特定のテンプレートに沿った文章を生成させたりする。
  3. 推敲・修正
    生成された文章を人間が確認し、必要に応じて修正を加える。

形式知としての知識蓄積と活用法

  1. データベース化
    形式知化された情報を、データベースやナレッジマネジメントシステムに蓄積する。
  2. 検索・参照
    必要な時に、キーワードなどで情報を検索・参照できるようにする。
  3. 活用
    研修資料、マニュアル、FAQ、チャットボットなど、様々な形で活用する。

暗黙知の形式知化に活用できるAI技術とツール

自然言語処理(NLP)の役割

自然言語処理(NLP)は、人間が使う言葉(自然言語)をコンピュータに理解させ、処理する技術です。暗黙知の形式知化においては、テキストデータの解析、要約、翻訳、質問応答など、様々な場面で活用されます。

代表的な生成AIツール(ChatGPT、Claudeなど)

ツール名特徴主な活用シーン
ChatGPT対話型で使いやすい、プラグイン拡張性インタビュー内容の分析、マニュアル作成
Claude長文処理に強い、文脈理解力が高い詳細な業務プロセスの分析、複雑な判断基準の抽出
GeminiGoogle検索との連携、最新情報の活用業界知識との組み合わせ、トレンド分析
Microsoft CopilotOffice製品との統合、業務文書活用社内文書からの知識抽出、レポート作成
Notion AI文書作成・編集支援、知識管理との統合ナレッジベース構築、情報整理

音声認識・動画解析との連携

音声認識

インタビューや会議の音声をテキスト化し、自然言語処理によって解析。

動画解析

熟練工の作業動画を解析し、動作の特徴を抽出。

これらのAI技術を組み合わせることで、より多角的に暗黙知を形式知化できます。

業種別・職種別の具体的な活用事例

製造業:熟練工の技術継承

熟練工の持つ技術やノウハウは、長年の経験によって培われた貴重な暗黙知です。AIを活用することで、これらの知識を形式知化し、若手社員への技術継承を円滑に進めることができます。

  • 作業手順の動画解析: 熟練工の作業動画をAIで解析し、動作の特徴やポイントを抽出。
  • ベテランへのインタビュー: インタビュー音声をAIでテキスト化、要約し、FAQを作成。
  • VR/ARを活用したトレーニング: 形式知化された情報を基に、VR/ARで再現された仮想空間でトレーニングを実施。

医療:ベテラン医師の判断プロセスの可視化

ベテラン医師の診断や治療方針の決定には、豊富な経験に基づく暗黙知が大きく影響しています。AIを活用することで、これらの判断プロセスを可視化し、若手医師の教育や診断支援に役立てることができます。

  • 電子カルテの解析: 電子カルテの記述内容をAIで解析し、診断に至るまでの思考プロセスを抽出。
  • 症例検討会の音声解析: 検討会の音声をAIでテキスト化し、議論のポイントを整理。
  • 画像診断支援: AIが過去の症例データを学習し、類似症例の検索や診断候補の提示を行う。

営業:トップセールスのトーク内容の抽出

トップセールスの営業トークには、顧客の心を掴むための様々なテクニックが隠されています。AIを活用することで、これらの暗黙知を抽出し、他の営業担当者のスキルアップに繋げることができます。これは新規事業におけるマーケティング戦略の立案にも役立ちます。

  • 商談の録音・録画: 商談の様子を録音・録画し、AIで解析。
  • トークスクリプトの作成: AIが成功事例のトーク内容を分析し、効果的なトークスクリプトを作成。
  • ロールプレイング支援: AIが顧客役となり、営業担当者のロールプレイングを支援。

暗黙知の形式知化で得られるメリットと注意点

ナレッジ共有の促進と属人化の解消

暗黙知を形式知化することで、知識が組織内で共有され、特定の個人に依存していた業務が標準化されます。これにより、業務の効率化、生産性の向上、人材育成の促進など、様々なメリットが得られます。

誤解や情報の歪みへの対応策

暗黙知を形式知化する際には、情報の誤解や歪みが生じる可能性があります。以下の点に注意し、対策を講じることが重要です。

  • 複数の情報源から収集: 一人の意見だけでなく、複数の人から情報を収集する。
  • 文脈を考慮: 言葉だけでなく、状況や背景も考慮して情報を解釈する。
  • 定期的な見直し: 形式知化された情報は、定期的に見直し、更新する。
  • 専門家の監修: 必要に応じて専門家のチェックを受ける

AIを活用した形式知化の今後の可能性と課題

技術的限界と倫理的配慮

AIによる暗黙知の形式知化は、まだ発展途上の技術であり、いくつかの課題があります。

  • 技術的限界: AIは、人間の感情やニュアンスを完全に理解することはできません。
  • 倫理的配慮: AIが生成した情報が、偏見や差別を含んでいる可能性もあります。
  • プライバシー保護: 個人情報や企業秘密の取り扱いには、十分な注意が必要です。

ヒューマンタッチとの共存の重要性

AIは、暗黙知の形式知化を支援する強力なツールですが、人間の役割を完全に代替することはできません。AIと人間が協力し、互いの強みを活かすことが重要です。

  • AIはツール、人間が判断: AIは、情報収集や分析を効率化するツールとして活用し、最終的な判断は人間が行う。
  • 創造性や直感は人間ならでは: 新規事業のアイデア創出など、創造性や直感が必要な場面では、人間の力が不可欠。
  • コミュニケーションは人間が: 顧客との関係構築や、チーム内の連携など、人間同士のコミュニケーションは重要。

まとめ:暗黙知の形式知化にはAIの活用が不可欠

暗黙知と形式知化の重要性の整理

本記事では、暗黙知と形式知化の基本的な概念、AIを活用した形式知化のプロセス、具体的な活用事例、メリットと注意点、今後の可能性と課題について解説しました。

  • 暗黙知は、企業や組織にとって貴重な財産であるが、共有や継承が難しい。
  • 形式知化は、暗黙知を言語化・可視化し、共有・活用可能な形に変換すること。
  • AI、特に生成AIは、暗黙知の形式知化を効率的かつ効果的に行うための強力なツール。

生成AIがもたらす革新と導入のポイント

生成AIは、暗黙知の形式知化に革新をもたらし、企業の競争力強化に貢献します。導入の際には、以下のポイントを押さえることが重要です。

  • 目的の明確化: 何を形式知化し、何に活用するかを明確にする。
  • 適切なツールの選択: 自社の課題や目的に合ったAIツールを選択する。
  • 段階的な導入: 小規模なプロジェクトから始め、徐々に拡大する。
  • 人材育成: AIを活用できる人材を育成する。
  • 継続的な改善: 形式知化された情報を定期的に見直し、改善する。

生成AIと人間の知恵を組み合わせることで、暗黙知は新たな価値を生み出し、企業の持続的な成長を支える力となるでしょう。

  • この記事を書いた人
望月裕也

望月裕也

株式会社ZIDAI代表取締役。 営業代行会社・飲食店を起業、事業譲渡後、プログラミングを独学。DeNAを経て株式会社インタースペースのWeb広告事業にて仮想通貨グループを立ち上げ月売上0円から1億円まで伸ばし全社MVP獲得。新規事業推進室でプロダクトリーダーとなり複数の新規事業に携わる。2020年に日本初の有機JAS認証取得CBD原料の専門商社、株式会社WOWを共同創業しCOOに就任。コスメ、健康食品の商品開発からブランドの立ち上げ、マーケティング支援を多数実施。2023年株式会社boom now CSOに就任し、WEB3プロジェクト、生成AIリスキリング事業の立ち上げを実施。

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