基本用語

M&Aのデューデリジェンスとは?意味・目的・流れをやさしく解説

M&Aのデューデリジェンスとは?意味・目的・流れをやさしく解説

M&A(企業の合併・買収)を成功させる上で、避けては通れない極めて重要なプロセスが「デューデリジェンス」です。

本記事では、M&Aの成否を分けるとも言われるデューデリジェンスについて、その基本的な意味から目的、具体的な種類や流れ、そして成功に導くためのポイントまで、専門的な知識がない方にも理解できるよう、やさしく丁寧に解説していきます。

この記事でわかること

  • M&Aにおけるデューデリジェンスの基本的な意味と、重要ポイントがわかります。
  • 財務・法務・ビジネスなど、分野ごとにどのような調査が行われるのかがわかります。
  • デューデリジェンスの準備から報告までの具体的な流れと、その結果の活かし方がわかります。

M&Aにおけるデューデリジェンスとは

M&Aの交渉がある程度進んだ段階で必ず実施されるデューデリジェンス。まずは、その言葉が持つ本来の意味と、M&Aにおける重要性について理解を深めましょう。

デューデリジェンスの基本的な意味と定義

デューデリジェンス(Due Diligence)は、直訳すると「当然払うべき正当な注意」となります。投資や取引を行う際に、対象となる企業や資産の価値、リスクなどを事前に入念に調査・分析し、意思決定に必要な情報を得るための一連の活動を指します。
現場では「Due Diligence」を略して「DD(ディーディー)」と呼ぶことが多くあります。

M&Aの文脈におけるデューデリジェンスとは、買い手企業が売り手企業の経営実態や財務状況、潜在的なリスクなどを詳細に調査する活動のことです。まるで、中古車を買う前に、専門家がエンジンや足回り、事故歴などを徹底的にチェックするようなものです。この調査を通じて、買い手は「この会社を、この金額で買って本当に問題ないか?」を最終的に判断します。

M&Aにおける位置づけと重要性

デューデリジェンスは、M&Aプロセスの中盤、基本合意契約を締結した後、最終契約を結ぶ前に行われるのが一般的です。この段階で、売り手企業から詳細な内部資料の開示を受け、本格的な調査に入ります。

なぜこれほどデューデリジェンスが重要視されるのでしょうか。その理由は、M&Aには大きなリスクが伴うからです。売り手企業が提示する情報だけを鵜呑みにして契約してしまうと、後から想定外の借金(簿外債務)が見つかったり、重要な取引先との契約に問題があったり、訴訟を抱えていることが発覚したりする可能性があります。

このような「隠れたリスク」を見過ごすと、買収後に多額の損失を被り、最悪の場合、M&Aそのものが失敗に終わってしまいます。デューデリジェンスは、こうした失敗を未然に防ぎ、M&Aの成功確率を最大限に高めるための不可欠な防衛策なのです。

「調査」ではなく「検証」である理由

デューデリジェンスは、しばしば「企業調査」と訳されますが、その本質は単なる情報の収集(調査)にとどまりません。むしろ、集めた情報が正しいか、将来の事業価値にどのような影響を与えるかを多角的に分析・評価する「検証」のプロセスであると捉える方が適切です。

例えば、財務資料に記載された売上高が正しいかを確認するだけでなく、「なぜこの売上を達成できたのか」「来期以降も持続可能なのか」「特定の取引先に依存しすぎていないか」といったビジネスの根幹に関わる部分まで踏み込んで検証します。この「検証」の精度が、デューデリジェンスの質、ひいてはM&Aの成否を大きく左右するのです。

デューデリジェンスの目的と実施タイミング

デューデリジェンスがなぜ必要なのか、そしてM&Aのどの段階で実施されるのかを具体的に見ていきましょう。

なぜデューデリジェンスが必要なのか(リスクと機会の把握)

デューデリジェンスの最大の目的は、買収対象企業の価値とリスクを正確に把握することです。これは、大きく2つの側面に分けられます。

  1. リスクの把握(ディールブレーカーの発見)
    • 財務リスク: 簿外債務、不適切な会計処理、粉飾決算など
    • 法務リスク: 訴訟、法令違反、許認可の問題、契約上の欠陥など
    • 事業リスク: 特定の取引先への過度な依存、キーパーソンの退職リスク、技術の陳腐化など
    • 労務リスク: 未払い残業代、労働紛争など
    これらのリスクの中には、M&Aの取引そのものを中止せざるを得ないほど重大な問題(ディールブレーカー)が含まれている可能性もあります。
  2. 機会の把握(シナジー効果の具体化)
    一方で、デューデリジェンスはリスクを発見するだけのネガティブな活動ではありません。売り手企業が気づいていない強みや、買い手企業との連携によって生まれる**シナジー効果(相乗効果)**を具体的に評価する重要な機会でもあります。
    • 販路の相互活用による売上増加
    • 技術やノウハウの共有による新製品開発
    • 管理部門の統合によるコスト削減
    • 未活用の資産(不動産や知的財産など)の発見

M&Aプロセスのどの段階で行われるか

デューデリジェンスは、通常、基本合意(LOI/MOU)を締結した後に実施されます。これは、デューデリジェンスの実施には売り手企業の詳細な内部情報の開示が必要であり、ある程度の独占交渉権が確保された段階でないと協力が得にくいためです。

【M&Aの一般的なプロセスとDDの位置づけ】

  1. 検討・戦略策定: M&Aの目的を明確にする。
  2. 相手先の選定: 候補となる企業を探し、アプローチする。
  3. トップ面談・交渉: 経営者同士で基本的な条件を話し合う。
  4. 基本合意(LOI)締結: 買収価格やスケジュールなどの大枠で合意する。
  5. デューデリジェンス(DD)実施: ★★★ ここが今回のテーマ ★★★
  6. 最終交渉: DDの結果を踏まえ、最終的な買収価格や契約条件を交渉する。
  7. 最終契約(DA)締結: 法的拘束力のある契約を結ぶ。
  8. クロージング: 株式の譲渡や代金の決済を行い、M&Aを完了させる。
  9. PMI(統合プロセス): 2つの会社を円滑に統合していく。

デューデリジェンスの結果がM&A判断に与える影響

デューデリジェンスの結果は、M&Aの最終的な意思決定に直接的な影響を与えます。具体的には、以下のような判断につながります。

  • 取引の実行
    事前の想定通り、大きな問題がなければ、当初の条件で最終契約に進む。
  • 条件変更
    想定外のリスクが発見された場合、それを基に買収価格の引き下げを交渉する。あるいは、契約書に新たな表明保証(売り手が情報の正確性を保証する条項)を追加するよう求める。
  • 取引の中止(ディールブレイク)
    発見されたリスクが許容範囲を超えており、条件交渉でも解決できないと判断した場合、M&Aそのものを取りやめる。

このように、デューデリジェンスは買い手にとって、「安全な取引」を実現するための最終的な砦としての役割を果たすのです。

M&Aデューデリジェンスの主な種類と項目

M&Aデューデリジェンスの主な種類と項目

デューデリジェンスは調査する領域によっていくつかの種類に分かれます。ここでは、特に重要とされる代表的なデューデリジェンスの種類と、それぞれの主な調査項目を解説します。

デューデリジェンスの種類主な目的主な調査項目
財務デューデリジェンス財務諸表の信頼性、収益力や財政状態の実態把握・正常収益力の分析
・財産(資産・負債)の実在性・評価
・キャッシュフロー分析
・簿外債務の有無
・税務リスクの評価
事業デューデリジェンス事業の将来性、競争優位性、市場環境の分析・事業モデルの評価
・市場規模と成長性
・競合他社との比較分析
・顧客基盤、販売チャネルの評価
・シナジー効果の分析
法務デューデリジェンス法的リスクの洗い出し、契約関係の精査・株式、定款、登記
・許認可の取得状況
・重要な契約書(取引、不動産、融資等)
・訴訟や紛争の有無
・知的財産権(特許、商標等)の管理状況
人事デューデリジェンス人事制度、労務リスク、組織文化の把握・人員構成、人件費の分析
・就業規則、雇用契約
・未払い残業代等の簿外債務
・労働組合の有無、労使関係
・キーパーソンの特定とリテンション策
ITデューデリジェンスIT資産の実態把握、システム統合リスクの評価・情報システムの全体像
・システムの安定性、セキュリティ
・ライセンス契約の状況
・システム統合にかかるコストや期間の試算
その他専門DD環境、不動産、知財など特定の分野のリスク評価環境DD: 土壌汚染、アスベスト等の環境リスク
不動産DD: 物的状況、法的権利関係
知財DD: 特許の有効性や侵害リスクの評価

財務デューデリジェンス(Financial DD)の内容

M&Aのデューデリジェンスの中でも最も基本となるのが財務デューデリジェンスです。公認会計士や税理士などの専門家が中心となり、決算書(貸借対照表、損益計算書など)の数字が正しいか、会計処理は適切かを検証します。特に、会社の真の収益力を示す「正常収益力」や、決算書には表れない「簿外債務」の有無を明らかにすることが重要です。

事業デューデリジェンス(Business DD)の内容

事業デューデリジェンスは、その会社の「稼ぐ力」が将来にわたって持続可能かを検証するプロセスです。コンサルティングファームなどが担当することが多く、市場の魅力度、競合との力関係、事業モデルの強み・弱みなどを分析します。M&Aの目的であるシナジー効果が本当に得られるのかを具体的に評価する上でも欠かせません。

法務デューデリジェンス(Legal DD)の内容

法務デューデリジェンスは、弁護士が担当し、法的な側面からリスクを洗い出します。会社の設立から現在までの登記や議事録が適切か、事業に必要な許認可は揃っているか、取引先との契約書に不利な条項はないか、訴訟を抱えていないかなどを徹底的にチェックします。見過ごすと後々大きなトラブルに発展しかねないリスクを発見する重要な役割を担います。

人事・労務・IT・環境などの専門デューリジェンス

上記の3つに加えて、M&Aの対象となる会社の特性に応じて、様々な専門デューデリジェンスが実施されます。例えば、従業員数の多い会社であれば人事・労務デューデリジェンスが重要になりますし、IT企業であればITデューデリジェンスの比重が高まります。近年では、企業の社会的責任への関心の高まりから、土壌汚染などのリスクを調査する環境デューデリジェンスの重要性も増しています。

デューデリジェンスの進め方と流れ

デューデリジェンスは、限られた期間の中で効率的かつ効果的に進める必要があります。ここでは、一般的な進め方と流れを3つのステップに分けて解説します。

準備段階(情報開示請求・資料リストの作成)

まず、買い手側は公認会計士や弁護士などの専門家を選定し、デューデリジェンスのチームを組成します。次に、売り手企業に対して調査に必要な資料のリスト(IDR: Information Document Request)を提示し、情報開示を求めます。このリストには、財務諸表、契約書、議事録、組織図など、多岐にわたる資料が含まれます。売り手側は、これらの資料を準備し、通常は「データルーム」と呼ばれるオンライン上のプラットフォームにアップロードして開示します。

調査実施(現地訪問・ヒアリング・資料分析)

データルームにアップロードされた資料を専門家チームが分析することから本格的な調査がスタートします。資料分析と並行して、売り手企業の経営陣や担当者に対して直接質問をするマネジメント・インタビューや、工場や店舗などの現場を視察するサイトビジットも行われます。書面だけではわからない、事業の実態や組織の雰囲気などを把握するための重要なプロセスです。

調査報告書(DDレポート)の作成と経営判断への活用

調査が完了すると、専門家チームは各分野の調査結果をまとめた**デューデリジェンス報告書(DDレポート)**を作成します。この報告書には、発見されたリスクとその影響度、評価額の算定に影響を与える事項などが詳細に記載されます。買い手の経営陣は、このDDレポートの内容を基に、最終的な買収価格や契約条件をどうするか、そして、そもそもこのM&Aを実行すべきか否かという最終的な経営判断を下すことになります。

デューデリジェンスの結果を活かすポイント

デューデリジェンスは、単にリスクを発見して終わりではありません。その結果をいかにM&Aの成功に結びつけるかが重要です。

想定外リスクの洗い出しと価格交渉への反映

DDレポートで重大なリスクが発見された場合、それは買い手にとって価格交渉の重要な材料となります。例えば、将来発生しうる損失額を合理的に見積もり、その分を買収価格から減額するように交渉します。

これを価格調整条項として最終契約に盛り込むこともあります。デューデリジェンスは、適正な価格でM&Aを行うための根拠を示す役割も担っているのです。

シナジー効果や統合後のリスク対策への活用

デューデリジェンスで得られた情報は、M&A後の統合プロセス(PMI: Post Merger Integration)を円滑に進めるための貴重なインプットとなります。

  • ビジネスDDで明らかになった強みを活かし、シナジーを最大化する事業計画を策定する。
  • 人事DDで把握した組織文化の違いを踏まえ、従業員の不安を解消するためのコミュニケーションプランを準備する。
  • IT DDで判明したシステム統合の課題に対し、具体的なスケジュールと予算を立てる。

このように、買収後の具体的なアクションプランを事前に検討しておくことが、M&Aを真の成功に導く鍵となります。

成功するM&Aに向けたデューデリジェンスのチェックリスト

効果的なデューデリジェンスを実施するために、以下の点をチェックしましょう。

  • 目的の明確化
    M&Aによって何を実現したいのかが明確になっており、DDの調査範囲(スコープ)がその目的に合致しているか?
  • 適切なチーム編成
    財務、法務、ビジネスなど、対象企業の特性に合わせて最適な専門家チームを組んでいるか?
  • 十分な情報開示
    売り手から協力を得て、意思決定に必要な情報を十分に引き出せているか?
  • リスクの重要度評価
    発見されたリスクを網羅的にリストアップするだけでなく、事業への影響度で優先順位付けができているか?
  • 買収後(PMI)への連動
    DDの結果が、PMI計画に具体的に反映されているか?

まとめ:M&Aのデューデリジェンスで失敗しないために

最後に、M&Aにおけるデューデリジェンスを成功させるための本質的なポイントをまとめます。

デューデリジェンスは「買収後の成功確率を高める投資」である

デューデリジェンスには、専門家への報酬など、決して安くないコストがかかります。しかし、これを単なる費用と捉えるべきではありません。杜撰なデューデリジェンスによって将来発生しうる損失額を考えれば、これはM&Aの成功確率を高め、最終的なリターンを最大化するための極めて重要な「投資」です。

重要なのは「情報の深さ」と「分析力」

質の高いデューデリジェンスとは、単に多くの情報を集めることではありません。開示された情報の裏にある背景や意図を読み解き、それらが将来の事業に与える影響を的確に予測する「情報の深さ」と「分析力」が求められます。表面的なチェックで終わらせず、あらゆる可能性を考慮して深掘りすることが重要です。

  • この記事を書いた人

望月裕也

株式会社ZIDAI代表取締役。 営業代行会社・飲食店を起業、事業譲渡後、プログラミングを独学。DeNAを経て株式会社インタースペースのWeb広告事業にて仮想通貨グループを立ち上げ月売上0円から1億円まで伸ばし全社MVP獲得。新規事業推進室でプロダクトリーダーとなり複数の新規事業に携わる。2020年に日本初の有機JAS認証取得CBD原料の専門商社、株式会社WOWを共同創業しCOOに就任。コスメ、健康食品の商品開発からブランドの立ち上げ、マーケティング支援を多数実施。2023年株式会社boom now CSOに就任し、WEB3プロジェクト、生成AIリスキリング事業の立ち上げを実施。

-基本用語